004 - 仕事は普通の『騎士』でいたい04






 打ち込めば弾かれ、打ち込んできたものを捌いて打ち込んでも上手く避けられる。


「俺より強いな!おい!」

「なんだ、シャルフってこんなもんか?」

「ぬぬ…」

「これじゃシャルフの評価下がるなぁ」

「おおおお…俺だって、本気になればぁぁ」


 あっさり負けた。

 あれ?俺って特別騎士シャルフじゃなかった?学校の厳しい授業とか頑張ってきたんだけれど?血の滲むような特別騎士シャルフの修行はなんだったの?え?なんで一般の騎士に負けて…。


「ってぇぇえ、リ族だもんな!そりゃそうだよな!!」

「ええ~?」

「リ族ったら有名な戦闘部族だし、小さい頃から戦ってたんだろ!?」

「まぁ自給自足がメインだからな、猛獣とも戦うし、寄ってきた魔物とも戦ってきたけど」

「根本が違う、根本が!」

「違わねぇって」


 ケタケタ笑いながら木刀ををこちらに向けてくると、くいっと木刀を動かし挑発してくる。そんなもの…乗ってたまるか…


「体力も無いときた…それじゃシャルフところか騎士すらも無理じゃ?」

「ぬぅ…!!!」


 突っ込んでいってまた負けた。

 えー…あれぇ?なんで俺こんなにボコボコに負けてるんだ?あれ?と床に伏しながら疲れた脳で考えてみるけれど分からない。


「リュシアンって人間相手だと弱いんだな」

「へ?」

「無意識に手加減したり、当たらないように変に急所からずらしたりしてる」

「え、そう?」

「それじゃいざって時にヤバいんじゃ?」

「いざってなんだよ、いざって」

「例えば悪魔だな、憑依型の悪魔は憑依されてる人を気絶させて魔法で追い出すか、殺すか、四肢を落として動きを止めないと被害が出る」


 滅多に悪魔だなんて高等な魔物出てこないけれどね。でも0ではない。


「他には人型の魔物だって出てくるかもしれないだろ?」

「魔物だってわかれば大丈夫だよ」

「どうだろな…まぁこれは木刀、当たっても死にはしないんだ…本気で掛かってこよい…」


 今度こそ挑発に乗るもんか…。俺は冷静に対応出来る特別騎士シャルフだ…いや、特別騎士シャルフやりたくないけれど。


「ビビリ君」

「んぬぁぁぁああ」


 あっさり挑発に乗った、そしてまた負けた。あれぇ?本当だ俺勝手に加減してるっぽいなぁ。と床に伏しながら自分の戦い方を思い出しながら納得した。


「なんか初めて知ることが出来た」

「何がだ?」

「俺って凄い優しいんだね…人を傷付けられないなんて」

「うん?うん…そうだな…」

「いや…」

「でも俺の稽古にならないからリュシアンじゃダメだな」

「ごめんな…」

「謝られましても…」


 そういえば学校でも対人戦の成績良くなかったの思い出したわ。

 起き上がって座ると袖で汗を拭いながらラフェルを見る。


「よし!まずはラフェルに勝つ事からスタートだ」

「どうした?」

「いや、対人戦昔から弱かったなぁって思ったから。これじゃ俺も稽古にならないやって思ったからさ」

「じゃあ暇があったら打ち合うか」

「うん、お願いするよ」


 しかし、お陰で何だか落ち込んでいた気持ちが浮上してきた。


「班長、そろそろいい?」

「え?ロン?」

「途中からいたの気付かなかったのか?」

「全然」

「いやぁ見事にジャン騎士に転がされてるの見てましたよ」


 そんな楽しそうに…。

 立ち上がってロンの方に向かいながら木刀を元の場所に置く。


「団長がうちの班とジャン騎士の班は今日もう上がっていいって」

「おお、そっか…ありがとね」


 仕事上がれるならもう風呂だな。皆で剣道場を出ると俺はそのまま寮の大浴場に向かう。ラフェルも汗流しに来ていたので湯船でのんびり手足伸ばしながら話し、風呂上がりにそのまま食堂へと向かう。のんびり風呂に入っていた為か折角少し早く仕事上がれたというのに、時間も時間で結構人がいるな。


「あ、ロン」

「班長たち風呂上がりか」

「席一緒していい?」

「どうぞ」


 カウンターでプレート受け取って席に座ると3人で仕事の話をしながら食べているとどんどん人が減っていき、食後のお茶を頂いている時にはポツリポツリとしか人がいなかった。


「なぁリュシアン、さっきの団長の所での話しさ」

「…別に大したことじゃないんだ…」

「あー、僕風呂行こうかな」

「気にしなくていいって、ロン…俺がシャルフやりたくない理由だよ。」

「話たくない話はしなくていいけど、気になってるんだよな!」

「話させる気満々だよそれ」


 なんか本当に大したことじゃないからいいんだけれどロンはそわそわしていて気まずそうだし、サラッと話してしまおう。


「俺がシャルフの学校行ってる間にね、シャルフだった父親が戦死したんだよ…ただそれだけなんだ、本当」

「怖くなったって事か?」

「それもあるけれど、シャルフってやっぱ戦死する率低いわけじゃないからさ、俺が家族守らないといけないし、母さん足も悪いから俺が仕送りしないとさ…だから死ぬわけにはいかなくて」

「家族かぁ尚更シャルフとして強くならないとな」

「いや、だから」

「ここでの仕事ならシャルフとして働いていた方がきっと安全だと思う」


 確かにそうだ、ここの仕事なら特別騎士シャルフとしての能力で魔法を貰った方が危険度は減る。しかし特別騎士シャルフとして働いていていたら他への転勤といわれる事もある。


「最前線の中央にさえ行かなければシャルフとしてここで働くのは構わないんだ」

「そうか、でも俺は一緒にリュシアンと仕事出来るから今のままでいてくれた方がいいな」

「そう?」

「ああ、だってなんかお前面白そうだし」

「ええ!?」

「班長優しいし無理に仕事回してこないから楽でいいから僕とずっと班組んでて下さい」

「楽って」


 ロンとは騎士になってからずっと班を組んでいるからな。辞めてしまったユキナリだって最初から一緒だったんだけれど、残念だ。


「そんなに班員に慕われてるんだから俺の楽の為にも俺の班ともいつも同行頼む」

「ちょ、俺に全部仕事させる気だ!」


 ラフェルのこのコミュニケーション能力の高さのお陰か、ちゃんと一緒に仕事したの2回とかなのに俺の弱い部分まで晒してしまった。何だか喋ってもいいかなって気にさせるんだよね。


 それからもラフェルとの仕事があったり、無くても一緒にご飯食べたり稽古したりしていたらあっという間に2ヶ月。


「役職変更されたなぁ」

「ラフェルもついに魔法騎士か」

「ついにじゃないですよ!!」


 リアガルとラフェルにロン、それに俺。4人で詰所の食堂でお茶を飲みながら任務待機している所。

 魔法使いになるって言い始めて2ヶ月で黒魔法の資格取ってきたんだよね、ラフェル。


「なんでこんなあっさりと…2ヶ月で取れるもんじゃないですよ!?」

「それはモルシャが教えてくれていたからだって」

「いやいや、違う!いくらなんでも2ヶ月ってどんな才能腐らせてたの?」


 リアガルの言う通りだ。黒魔法だって使えるようになって試験通るまで最低1年は学ばないといけないのに。2ヶ月前までマナの動かし方すら知らなかったのに。


「私の師匠も驚いてぎっくり腰になったからね」

「ああ、そうなんだ…お師匠さん…お大事にね…」

「マジか、シャイアナ師匠にもお礼に行かないとな!シップとかでいいかな?」

「まぁ今度の休みにでも行きましょ、ラフェルの休みいつ?」


 いつだかから2人が親密になっている気がするのには薄々気付いていはいるけれど何も知らないふりはしている、俺もロンも。

 いいなぁ彼女かぁ俺も欲しいなぁって思いながらお茶をすする。


「お、いたいた~今回の任務の説明するから団長室きて~」


 相変わらず元気に現れたのはラナさんだ。俺より少し背が低いくらいなのはパンプスのヒールの為か、目線は同じくらい。黒い髪を後ろに一本に束ね、ゆるいカーデガンにタイトな膝丈のスカート。いつも通りのちょっとキツく見えるメガネをクイッと上げながら立ち上がった俺を見ている。


「ラナさんは彼氏いるの?」

「何を急にそんなプライベートな事を聞いてくるのかね?グランツシャルフ」

「俺には春というのは縁遠いのかなぁって…女性の意見を聞きたくてね…」

「ふむ、既婚者からの意見としては」

「「は!?」」


 食堂にいたであろう他の人達も皆声が揃ったであろう。


「いいいいいいつ結婚したの?ラナさん…」

「そもそもいつ私が独身だと言ったかね?」

「指輪してないから…」

「ああ、金属アレルギーと仕事で無くすの嫌だからデスクに置いてある」


 至るところから声が上がり食堂がざわざわと五月蝿くなっている。恐らくラナさんを狙っていたであろう男の嘆きや、知らなかった同僚の驚きとかそんな所だろう。


「じゃあ大先輩…やはり男は身長ですか?顔ですか?」

「いんや、金だ!」


 金…。


「まぁグランツシャルフはちっこいからね、気になるかもしれんけど、シャルフとしてのいい職があるじゃないか」


 手、手!お金のハンドサイン出さないで!


「俺、ここでは騎士としての給料しか出てないですが」

「それでもここじゃいい給料よ」


 お金、大事、よくわかったから、そのハンドサイン早く納めて…!


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