002 - 仕事は普通の『騎士』でいたい02
魔物の群れに向かって馬を走らせていると数分で姿が見えた。チンパンジーのような人間と同じくらいの大きさの魔物。愛嬌のあるチンパンジーとは違い、目は血走っているし牙が凄いしでめちゃくちゃ顔怖いんだけれどね。
持ってきたランスを構えるとガルが能力向上の魔法をかけてくれる。
「いけます」
「シーファ、速く!」
馬のシーファは俺の専属ではないのにちゃんと言うことを聞いてくれ、しっかり速度を上げてくれている。小刻みに震える手を落ち着かせるために大きく深呼吸をしてしっかりと前を向く。
群れとのすれ違いざまに3体を貫き霧へと還した。
「よし…次」
シーファが上手くUターンをするとこちらを敵と認識し、こちらに向かってきた魔物へと再度突っ込んでいく。また上手く2体貫いたが、ランスじゃ小回りがきかないな…。
いったん群れから離れてもらいランスじゃなく剣に持ち帰るとすぐにガルが魔法効果をつけてくれる。殺傷能力向上と水魔法効果だ。
「俺降りるから少し離れて援護頼む」
「分かりました」
手綱を任せると馬から飛び降りて魔物の群れに剣で斬り込んでいく。
ランスと違い魔物の合間を縫うように走って何体かを霧に還すと更に山の方から走ってきた群れへと突っ込んでいく。
麻痺毒効果のある爪を避け、魔物から吐き出されてき火球は剣に付与してくれた水魔法の効果で相殺してくれる。リアガルは
「リア、凄いな!!」
「え?」
「君の魔法の援護とても的確!」
「あ、ありがとうございます…」
戦いながらもガルを褒める余裕が出てきたのは魔物が減ってきたからとリアガルが優れているからだ。能力向上魔法をもらえた俺にかかれば簡単な魔物だった。だが…
「倒し終わった、次来ない?」
「はい、しかし…」
「ラフェルの方だろ?急ごう!!」
馬に飛び乗ると早駆けでラフェルの方へと向かう。一般騎士では結構辛い仕事だろう。
現地に着くと弓術士のロンは無傷で後ろからの援護射撃、ボロボロだけれど何とか致命傷を受けず戦っているラフェルがいた。
「随分増えたな」
「ああ、来たなら早く手伝え!流石に疲れてきた!」
「疲れたで済むラフェル…凄いや」
俺も馬から降りて魔物を斬りながら走って行く。ラフェルの前に出ると後ろに下がらせてガルの治療を受けてもらっている間に残りをさっさと殲滅し、終わらせた。
「流石シャルフ」
「いや、何体殺ったよ…ラフェル」
治療を終えたラフェルが剣を納めながら寄ってきた。俺も武器を納めて緊張を解くためにゆっくりと深呼吸をした。
「6、7体はいってましたよ…」
「お?俺そんなに殺れてた?」
端整な顔立ちのロンが綺麗なストレートのブロンドを揺らし、武器を納めこちらに歩み寄りながらラフェルの討伐数を教えてくれた。そんなロンの顔から足まで見て怪我がないことを確認して静かに頷く。
「はい、ジャン騎士の動きには驚かされました…騎士なのにあんな動きが出来るなんて…シャルフと間違えられそう、流石戦闘部族…」
「ロンだって2体は射ってたの見たぞ」
「流石弓術士!一般の弓兵と違って凄いな…今度指南してもらいたいな」
「シャルフだと弓術も習うんじゃ?」
「俺弓苦手なんだよ…頼むよロン」
「僕でよければ今度見ますよ」
「ありがとう!」
リアガルがまた意識を集中して呪文を唱え始めたので少しトーンを落としつつ3人で話を続けた。
「ラフェルがシャルフの素質あったら一気にSランクだろうよ…」
「それ、僕も思いました」
「やっぱシャルフ…俺もなりたかったなぁ」
「検査したことあるの?」
「ああ、俺には素質0だったな」
「そっか」
「魔法の素質はあったらしいけれどな」
「それで魔法まで使えたらシャルフより強いんじゃ…?」
「あ、そっか…習うかぁ」
「私でよければ教えますよ、基礎」
魔法唱え終わったのであろうリアガルがラフェルの方を向くとニコっと笑う。ああ、いい師匠かもしれない。彼女のガルとしての能力はなかなかに高い。
「ラフェル、教えてもらいなって…リアガルは凄いんだ!的確だし魔力も高いし!」
「マジか、教わろうかな」
「ええ、私で教えられる範囲でしたら。基礎を覚えたら学校に通うかしっかりした師匠を付けて学ぶといいと思います」
「えー、仕事しながら出来るのかなぁ」
「まずは基礎を勉強してから考えてみるのもいいかも、ですよ」
「そうだな、楽しみだな魔法覚えるの」
馬を連れてきてくれたロンにお礼を言いながら馬にまたがったラフェルが何だかちょっと嬉しそうで見ていこっちも表情が緩む気がした。
リアガルが周りの魔物状況をしっかりと確認してくれたので全員で村に戻る。恐らく殲滅完了したであろうと報告をすると他の魔物は見たことが無いというのでこれで依頼完了だ。
「このまま帰還して報告したら今日は終わりかな」
「これだけの仕事をしたんだから休めるだろ」
行きは重たかった気持ちも帰りは少し軽くなっていた為か行きよりも早く帰れた気がした。馬を預けて本部の建物内に入るとすぐに報告したかったが団長は帰ってきてなかったのでラナさんに会いに行って大まかに村の状況等を話した。
報告を済ませて食堂で相変わらずお茶しながらダラっとしているとフと思い出して武器とか全部置いたまま慌てて外に出て行く。
「シーファ!シーファー!」
「おお?どうした?忘れ物か?」
「いえいえ、シーファにお礼してなかった…今日は乗せてくれてありがとな!いい走りだった!ゆっくり休んでな!また機会があったら乗せてくれよな!」
そう言って撫でるとなんとなくだけれど嬉しそうに鳴いてくれるみたいだった。馬だって声をかければ分かってくれるんだ。言葉が通じていようがいまいが俺の感謝は伝わっていると信じている。
「律儀な奴だな…でもシーファも分かったみたいだな機嫌良さそうだ」
「そっか、ならよかった…俺はまだまだ未熟だけれどシーファや優秀なガルがサポートしてくれたから仕事こなせたからね!ほんとありがとう!」
挨拶をしてから食堂に戻るとラナさんもお茶を入れに来ていた。
「あら、グランツシャルフじゃないですかぁ」
「やめてください、ほんと…」
「ふふ、でもリュシアン君しっかりとシャルフとしての仕事をこなしたんだってね、モルシャちゃんから聞いたわよ~とてもいい動きしてたらしいじゃない」
「俺の力じゃない…リアガルが優秀だったから俺が動きやすいようにサポートしてくれたかあら出来たんです。こんなにも優秀なガルいたんだな、ここの領地にも」
俺だって他のガルと組むことなんてほとんど無かったけれど、数少ないパートナーになってくれた過去のガル達を思い出しても断然リアガルの能力の方が高い。
「で、そのリアガルとラフェルは早速魔法の話してるのか?」
「そうみたいね、ラフェル君魔法使えるようになったら、もぉーっと強くなっちゃうわね」
「そう思って提案してみたんだ」
「リュシアン君が言ったんだ」
「うん、だってあんなに強いんだ…もっと強くなれば俺シャルフしなくていいじゃん」
「あ、そういう…でもダメよ人員減っているから暫くはモルシャちゃんとセットでお仕事だからね」
「えええ、やだよ、ラナさん!!!行かないで!!!話聞いて!!!」
「が~んばってね~」
「まってぇぇぇ」
手をヒラヒラと振りながら行ってしまった。俺…まだ
しょぼんと肩を落としながら椅子に腰掛けるとロンにお菓子を勧められた。
「マナコアに魔力を貯める所から始めないと」
「マナ…」
「あ、そんなに基礎の基礎からなんだ」
リアガルがラフェルに本当の基礎中の基礎の話をしていたので驚いてしまった。大体の人が通常なら普通に生活しているだけでもマナ…魔力を感じられるというのに。
「リ族では魔法使う奴あまりいなかったからな…必要ないからやったこともなかった…勿論リュシアンも出来るんだろう?」
「俺?出来ないよ」
「え?」
「そもそもシャルフは自分の魔力0だからね」
「普通の人だって多少なりともあるって聞いたぞ?」
ラフェルは驚いたように声を上げた。
「そもそもそういえばシャルフって何が違うのかわからないんだよね…適性検査受けたけれどさ」
そうか、
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