第11話 初めての解体作業と爆炎テントウムシ!

ミナトは、2回目の鐘がなったので、待ち合わせの時計台へと向かう。時計台と言っても3時、6時、9時、12時に鳴るように設定されているだけである。異世界には、短針長針の概念はないようだ。


「ドンは、どこだろう?」


ミナトは、ドンを探してキョロキョロ周りを見ていると、後ろから声をかけられる。


「ミナト、こっちだこっち!」


振り向くとドンと見たことのない2人がいた。1人は、身軽な皮の鎧を身に纏った身長の低い赤毛の女性。もう1人は、ローブを着たザ・魔法使いという感じの男性である。


「ドン悪い。待ったか?」


「いや、俺達も来たばかりだ。まずは紹介からだな。タリアとジェフだ」


赤毛の女性がタリアでローブを着た男性がジェフとのことだ。


「俺はミナトです。よろしくお願いします」


「ミナトくん、かわいい〜。弟にしたいよぉ」


タリアは、会っていきなりミナトに近付き、顔に頬ずりをして愛でまくる。


「タリア、いい加減にしろ!ミナトが決まってるだろうが!さっさと離れて自己紹介をしろ」


タリアの節操のなさに呆れたドンは、タリアに拳骨をしてから、首根っこを引っ張り引き離す。


「痛ぁぁぁい!ドンの筋肉ダルマ〜、ベーだ......ちょ、冗談だからね。そうだ。自己紹介自己紹介。ミナトくん、斥候のタリアだよ。よろしく。あ!アタシもドンみたく普段通りの話し方でいいからね」


タリアは、ドンに殴られたお返しに悪口を言うが、またドンが拳骨の構えを見せると焦って話を逸らした。どうやら日常のことやらしく、ジェフはやれやれといった表情をしていた。

そして、斥候という偵察を担当する係らしい。一応、昨晩ミナトもナノから冒険者の知識を軽く学んでいた。


「僕は魔法使いのジェフです。よろしくお願いします。僕にも普段通りの話し方でいいですからね」


ローブのフードを取って握手までして挨拶をしてくれる。見た目は10代後半くらいの青年であった。


「よっしゃ!自己紹介も終わったし、早速行くとするか。まずは、爆炎テントウムシの方に行こうと思うんだが、ミナトは爆炎テントウムシの何が欲しいんだ?」


「油袋がほしいんだよ。あとは、ラフラフの花は蜜だな。今日中に行けそうか?」


ミナトとしては、今日中に集めて帰りたいと考えていた。何故かというと、元日本人として風呂に入って清潔な服に着替えたいという単純な理由だ。


「おう!全部近くの森の中で手に入るから今日中に帰れるだろうな。だが、爆炎テントウムシは、生きたまま触るなよ。この睡眠香を焚いて寝てる間に解体する感じだ」


「わかった。とりあえずドン達に任せて見て学ぶな」


ミナトは、3人に冒険者の基本を学びながら、今日のもう1つの強敵デッドリーポイズンキラービーについての話を聞いて森へと向かった。


「この辺が、爆炎テントウムシの生息地だ。タリアが偵察から戻ったら向かおう」


それから暫くして、慣れた動きで木を伝って戻ってくるタリアが見えた。


「問題はないと思うけど、爆炎テントウムシが異常発生していたよ」


「異常発生か......まぁ、このメンツなら問題ないだろう。とりあえず行ってみるぞ」


4人は、警戒しながら森の中を歩き爆炎テントウムシの生息地へと向かうのだった。





「うわぁ、凄い数ですね」


爆炎テントウムシの生息地に着くと、地面を覆い隠すほどの数がいた。ジェフは、思わず息を飲んで驚く。


「こいつは、予想以上だな。とりあえず睡眠香を焚くからジェフ風魔法を頼む」


「わかりました。風の精霊よ、我の問いに答えよ。ブリーズ」


そよ風のような、優しい風が吹き、その風に乗って睡眠香が爆炎テントウムシのいる方向へと流れていく。

それから、暫く待っていると爆炎テントウムシが裏返り始める。全部の爆炎テントウムシが裏返ったのを確認したドンは合図を出す。


「よし、ジェフそれくらいでいいだろ。そろそろ解体に取り掛かるぞ」


ジェフがブリーズの魔法を解くと、3人は一斉に爆炎テントウムシの方へと走り出す。


「ミナト、解体をするからよく見とけ」


ドンは、ミナトを側へ呼んで、丁寧に解体のやり方を教えてくれた。


『ナノ、悪いが解体のやり方を記録してインストールを頼む』


『畏まりました』


ドンの解体を見ているミナトだが、これを一発で覚えるのは無理だと判断してインストールすることにした。


「こんな感じだ。失敗してもいいからやってみろ。ナイフは、これを使え」


ドンが、持っていた予備の解体用ナイフを借りる。ミナトは、道中話している中で、解体用ナイフを購入することをすっかり忘れていたのを思い出して、そのことを話すと貸してもらえるということになった。


『インストールを頼む』


『ご主人様、インストールを開始します』


インストールが始まると一瞬にして頭に情報が流れ込む。情報量が少ないお陰で頭痛に悩まされることはなかった。

そして、解体を始めると手が勝手に動くような感覚で次から次へと何をすればいいか、ハッキリとわかる。


「おいおい、ミナト!解体は初めてだよな?俺より早いし綺麗だぞ」


「本当ですね。ミナトさん解体の才能ありますよ」


「凄〜い。これなら早く終わりそうだね。アタシも負けないように頑張るよ」


3人は、ミナトの解体を食い入るように眺めて、一斉に褒めてくれた。確かに素人目からしても1番綺麗に解体出来ている。


『何かやった?』


『人を犯罪者みたいに言わないで下さい。ただ最適化しただけです。無駄を排除した感じですね。やり過ぎましたか?』


『いや、スムーズに終わるし有り難いよ。助かった』


『どう致しましてです』


解体はスムーズに進んで行き、大量にいた爆炎テントウムシは見事に半分以上居なくなった。これ以上は、荷物になるので、まだ爆炎テントウムシはいるが解体は途中で終了することにした。


「ここで一旦休憩してからラフラフの花の生息地に行こう。ここだと魔物も襲ってこないしな」


「ん?なんで魔物が来ないってわかるんだ?」


周りに結界などの魔道具やジェフが魔法を使った様子がないにも関わらず、何故安全な空間なのかミナトはわからないといった顔をする?


「爆炎テントウムシの生息地には昔から魔物は近寄らないんだ。生きたままだと爆発して食べることも出来ないし、触っただけで爆発するだろ?だから爆炎テントウムシのいる場所は安全と昔から決まってるんだ」


「なるほどな」


冒険者にとって常識的なことをまだまだ知らないミナトにとっては、未知の世界であり、謎がいっぱい広がっていることでワクワクしてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る