第10話 鍛冶師の女性バジルとの出会いと専用装備!

ドンと鍛治屋に着いたのだが、何故か大通りにある場所は避けて、寂れた裏手にある鍛治屋にきていた。


「バジルいるか?」


鍛治屋らしき平屋は閉まっており、看板すら出ていなかった。ドンは、閉まっているにも関わらず、気にする様子もなく引き戸を叩く。


「うっせぇな。ってドンか。また斧を壊しやがったのか?」


暫くすると、褐色色の肌で、Tシャツと作業ズボンを着た20代のやんちゃそうな女性が現れた。

そして、ドンに対する対応からして顔見知りだと窺える。


「壊してねぇよ。今日は、客を連れてきたんだ。模擬戦とはいえ俺に勝ったミナトだ。客として不足はないと思うぞ」


ドンがそう言うと、バジルはミナトに近付いて、全身を舐め回すように見てくる。


「ふ〜ん。ドンに、勝ったのも頷けるか。子供のくせに、どう鍛えたらこんな理想的な筋肉を付けられるのやら。それに......やっぱりな。柔軟性もあるし、しなやかさも兼ね備えてる。ちょっと待ってろ」


バジルは、ふくらはぎと腕を触って筋肉の付き方を調べたあと、奥の工房らしきところへ行ってしまった。


「バジルは、俺の知る限り最高の鍛治屋だ。オヤジの代から認めたやつにしか武器も防具も作らねぇんだ。あの様子だと認められたな」


そんなことを話していると、奥からバジルが色々抱えて戻ってきた。


「この3本の中から好きな剣を選べ」


よく似た3本の剣が置かれた。ミナトからすると、全くもって違いが分からない。


『ナノ、どれが1番合うかわかるか?』


『1度全て手に取って貰えますか?解析して最適な1本を選びます』


ミナトは、言われた通り1本ずつ剣を持ってみる。バジルが振ってもいいと言ってくれたので、一振りだけさせてもらうことにした。


『2本目が1番合っています。92%適合します。柄と刀身をご主人様のバランスに調整出来れば適合率100%になります』


『ナノ、ありがとう!俺にはさっぱりわからなかったわ』


的確に分析したのも驚きだが、バランスの調整など未完成な部分も分析できることに驚く。


『フフッ!わからなくて当然です。わかってしまっては、私の存在意義がなくなってしまいますからね』


『ナノ様、頼りにしてます』


冗談ぽく言うとナノは『フフッ』と笑うのであった。


「まだか?選び終わったならどれがいいか言ってくれ」


「これです。ですが、完璧ではありません。柄と刀身のバランスを更に良くすれば、俺専用武器に出来そうです」


ナノの言ったことをそっくりそのまま言うと、バジルはキョトンとした顔をしてから大笑いする。


「ブッハ、マジかよ!試してやろうとわざと3本用意したんだが、ここまで的確に言い当てられたら降参だな。1週間待てろ!ミナト専用の武器と防具を作ってやる。代金は手間賃の金貨10枚でいい」


ミナトは、専用武器と防具が手に入るのは、大きいことだが、手間賃だけではなくしっかりと代金を払いたいと思った。


「専用武器と防具の依頼を是非お願いしたいです。ですが、最高の仕事には、それ相応の対価を支払うべきだと思っています。本来の価値はこれで足りますか?」


ラッセルから報酬で貰った金貨200枚が入った袋を1つ鞄から出す。

そして、中身を見たバジルは驚いて後ろに尻餅をついた。その時、金貨が地面に何枚か落ちて、中身が全て金貨だとわかったドンも目を丸くして驚く。


「な、な、なんてもん出してきてんだ!どっか貴族かよ!」


バジルは、驚き過ぎて尻もちをついたあと、後退りしてしまう。


「ミナト......様!?俺はなんて無礼なことをしてしまったんだぁぁぁ」


ミナトを貴族勘違いしているドンは、冒険者ギルドの件を思い出して無礼を働いてしまったと震え上がっている。


「違いますよ。伯爵様の依頼をこなして得た報酬です。ですから、私は平民ですよ。それで、バジルさん代金は足りますか?」


それを聞いたドンは、深い溜息をついて胸を撫で下ろし安堵していた。


「なんだよ......ミナト、心臓に悪いぜ。にしても、これだけの報酬ってどんな依頼だよ」


「ごめんごめん!依頼については内緒。言い触らす内容でもないし」


金貨200枚もの依頼となると冒険者ギルドでも数年に一度あるかないかの依頼であり、詳細が気になったようだ。


「ミナト、半分返す!200枚もする素材はうちにはない!だけど、最高の仕事をさせてもらうからな」


バジルは、自分を信じて200枚もの金貨を出してくれたミナトの心意気に胸を打たれて、最高の物を作ろうと考えた。


「それから、あまり金を見せびらかすなよ。ドンみたいなお人好しばっかじゃないからな!それと、完成するまで、こいつを貸してやる。早速着てみろ」


そう言われて防具を着けてみると、かなりしっくりくる感じで、動きにも一切支障がない。


「凄いですね。少し大きいかなって思いましたが、大きさも気になりませんし、動きやすくて違和感が全然ありません。最高ですね」


「アッハハハ、そうだろ?だけど、専用の防具は、こんなもんじゃないから期待しとけよ」


バジルは、先程奥に行った短時間で、ミナトに合うサイズに調整していた。


「ありがとうございます。では、また1週間後に来ます」


「おう。任せとけ。あとこいつも持ってけ」


男勝りなバジルは、ミナトが選んだ剣も貸してくれるようで、投げて渡してきた。

そして、バジルは布を頭に巻いてハンマーを持ち、今から作業に取り掛かるようだ。


「ミナト、明日の朝2つ目の鐘が鳴ったら時計台の前に集合だ。睡眠香と依頼は俺が受けておいてやるから、明日に備えて休め」


ドンは、お人好しかつ面倒見いい兄貴のような感じで、ミナトは日本にいた頃とは違い、人に恵まれてるなと実感する。


「ドン、本当にありがとう。明日もよろしくな」


「おうよ。じゃあな」


ドンとミナトは、お互い笑顔で手を振り別れた。


『いい仲間に巡り合いましたね。ですが、先程もバジルさんが言っていましたが、すぐに人を信用してはいけませんよ。何かあれば私が忠告します』


『そうだな。偶々いい人に巡り合ってるだけだもんな。何かあったら頼むな』


ミナトは、今まで気付いていなかったが、前世のことを思い出して警戒心を強めなければト感じたのと、何故人付き合いを平然とできるようになったのかをナノに聞かなくてはと思うのだった。

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