第6話 活動拠点がまさかのお屋敷に!
ミナトは、屋敷に風呂があったので入らせて貰い、貴族が着るような部屋着を着させられた。着慣れていないせいか、全身がかなり窮屈に感じる。
「とてもよくお似合いです。では、ごゆっくり部屋でお寛ぎ下さいませ」
メイドは、そう言うと部屋から出て行った。
そして、ミナトは誰もいなくなったのでベッドで一眠りしようとベッドに腰を降ろした瞬間、ドアがノックされる。
「は〜い。どちら様ですか?」
「1等執事のシュニッツェルと申します。旦那様がお呼びでございます」
この世界の執事は、1等、2等、3等と階級が分かれている。基本伯爵以上は、屋敷に1名1等執事がいる。男爵・子爵は、基本1名2等執事を雇い入れる。だが、資金が潤沢にある下級貴族は、1等執事を雇い入れている所もあるようだ。それ以下の、準男爵・士爵は3等執事を雇うか資金が無ければ雇い入れることすらできない。
「は〜い!今行きます」
部屋から出たミナトは、シュニッツェルに案内されてラッセルの部屋へと向かう。
『骨格・筋肉・身のこなしからして、かなりの使い手です。今のご主人様では瞬殺されますので、シュニッツェルさんにはくれぐれも逆らわないで下さい』
念話のような形で話しているにも関わらず、ナノはひそひそ話をするかのように、小声で話してきた。
『マジか......あれだけ強かった未完の剣豪をインストールしていても勝てないのか。シュニッツェルさん何者だよ』
『どのような経歴をお持ちかわかりませんが、経験の差でご主人様は負けています。これから、色々経験を積んで強くなって下さいね』
シュニッツェルは、執事だけをしてきたわけではなく、過去に普通の人物では経験できないような戦闘をしていたとナノは分析した。
『あぁ、これからもアシスト頼んだぞ。ナノ』
『お任せ下さい。ご主人様を世界最強にしてみせます』
ナノと会話していると、部屋に着いたようでシュニッツェルが立ち止まる。そして、シュニッツェルはノックを数回して、ラッセルからの返事を待つ。
「旦那様、ミナト様をお連れ致しました」
「そうか。入ってもらいなさい」
シュニッツェルから「どうぞ、お入りください」と言われたのでミナトは部屋へと入る。
「おぉ〜、待っておったぞ。まずは座ってくれ!そして早速だが、今回の護衛料と助けて貰った謝礼だ。受け取ってくれ」
ドンッドンッと音がなるくらいに重たそうな袋が2つ置かれた。中を見てみると、金色に光ったコインが入っていた。
『ナノ、これって金貨だよな?』
『はい!金貨です。それも大量です』
『金貨だし、かなり価値があるんだよな?』
『はい!日本円で金貨1枚10万円の価値があります』
「10、10万円!!」
心の中でナノと会話をしていたが、ナノから出た10万円という金額を聞いて、目を丸くしながら思わず驚いて声を上げる。
「ミナトくん、どうしたのだ?」
ラッセルは、急に大声を出したミナトを心配そうに見つめる。
「え、えっと、申し訳ございません。あまりに大きな金額だったもので驚き、思わず声が出てしまいました。それより、こんなに受け取れませんよ」
それを聞いたラッセルは、大笑いし始める。
「ブッハハハハ、ミナトくんはいい!実にいいな。シュニッツェルも、そう思うだろう?」
ラッセルは、ミナトの何を気に入ったのか、大笑いしたあと、シュニッツェルに相槌を求めた。
「はい!旦那様。ですが、ミナト様が戸惑っております」
「すまなかった。最近欲に塗れた人間ばかりを見てきたのでな。そのような反応が久しぶりで嬉しくなってしまったのだよ。おっと、話がそれてしまったな。これは正当な報酬だ。是非受け取ってくれ」
ミナトは、貴族の世界は華やかなものだけではなく、想像通り面倒なしがらみが多いのかと思った。だが、それよりも目の前の金貨の山に圧倒されてしまう。
「ですが......」
流石に、申し訳ないという感じて断ろうとした時、ナノが割って入ってきた。
『ご主人様、受け取って下さい。これ以上断るのは相手に対して失礼に当たります。貴族とはそういうものなのです。日本のように、全てにおいて謙虚が美徳とはなり得ない世界なのです』
『わかった。ナノがそう言うならそうなんだろうな。はぁ、異世界は難しい』
ミナトは、日本人としては、理解し難い考え方をする貴族というものに対して、今後うまく関わりが持てるだろうかと不安になる。
「ラッセル伯爵様、ありがとうございます。喜んで頂戴させて頂きます」
それを聞いたラッセルは、満面の笑みになってうんうんと頷く。
「改めて今回の件、感謝する。それと、ミナトくん、これからどうするつもりなのだ?」
「育ててくれた爺さんもなくなり、戻る当てもないですので、これを機にシュバルツ帝国で冒険者となって楽しもうかと思っております。旅もしてみたかったので」
「では暫く、この屋敷の客間を使いなさい。冒険者登録に装備の購入、それに慣れるまでは、ホスニケムで活動すればいい。どうだ?」
ラッセルは、このことも踏まえて大金を報酬として与えていた。ミナトからすると、渡りに船であり、ここまでの好条件はないほどのものを提示してくれている。
「私としては、願ってもないことですが、ここまで良くして貰ってよろしいのでしょうか?」
「構わないさ。ミナトくんは、私の命の恩人だ。ゆっくり滞在してくれて構わない。それに、腕も立つから騎士のいい訓練相手にもなりそうだからな」
ラッセルは、ただお礼としてミナトに良くしているわけではなく、ラッセル側にも理があって提示しているようだ。しかし、ミナトとしても経験を積めるチャンスであるため、願ってもない申し出であった。
「ありがとうございます。シュバルツ帝国の常識を知りませんので、ご迷惑をお掛けするかも知れませんがお言葉に甘えさせて頂きたいと思います」
「そうかそうか。では、今日は歓迎パーティーをしないといけないな。シュニッツェル、今晩の夕食は豪華にしてくれ」
ミナトにお礼が出来そうなのと、腕の立つミナトと接点が持てたことにラッセルは喜ぶ。
「畏まりました。旦那様」
シュニッツェルは、頭を下げて、サッとその場から姿を消した。
『ナノ、今すぐ食事のマナーをインストールしてくれ』
『仕方ありませんね。シュバルツ帝国のものかは分かりませんが、この世界の一般的な物を部屋に戻りましたら、インストール致します』
ナノも、全ての情報があるわけではないので、国を絞り込んでの所作をインストールするのは難しいようだ。
『ありがとう〜ナノは俺の女神様だ』
『もう〜ナノがいないと駄目駄目なんですから。へへへっ』
ナノは、まだ未完成なのか、そういう仕様なのか、ロボットのような反応をする時とこのようにデレを見せる人間味のある言葉遣いをする時があるのだった。
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