第5話 ラッセルの家族と出会う!どうやら鈍感主人公のようだ!

ラッセルからのお願いで護衛をすることになったミナトは、やっと街に行けるなと内心安堵する。


「ミナトは、どこから来たんだ?子供ながらにして、こんな腕の立つやつを見たことがない。それに、見たこともない剣術もだ」


ミナトは、いつか聞かれるだろうと思っていたが、色々あり過ぎて言い訳を考えていなかったので焦る。

それに、「日本ですよ」などと答えられるはずもないからだ。


『赤ん坊の時に捨てられて、あの森に住んでいた老人に育てられたことにしましょう。オッドアイの目は、この世界でも珍しく、変に答えてしまうとボロが出てしまいます』


「俺は、赤ん坊の時に捨てられて両親も生まれた場所もわからない。この森で、爺さんに拾われて、その人物から剣術を習った。爺さんは最近帰らぬ人となって、俺は旅をすることにしたんだ。それより、ここはどの辺りになるんだ?」


ナノからのナイスアシストがあり、ミナトはすぐに言い訳を考えてスムーズに答えることができた。

ちなみに、ミナトの容姿は、グレーの髪に赤と青のオッドアイと珍しく、可愛らしくもありカッコいい顔立ちをしている。


「そうか。悪いことを聞いた。ミナトを育ててくれた爺さんには感謝しないとだな。そのお陰で、伯爵様を死なせずに済んだのだからな。それと、ここはシュバルツ帝国南部だ。爺さんは、何も教えてくれなかったのか?」


ミナトは、どう返答しようか迷っているとまたナノが助けてくれる。


『人との交流を避けていたお爺さんという設定にし、素直に教えてもらっていなかったことにしましょう』


『ナノ、アドバイスありがとうな』


ミナトは、ナノから貰ったアドバイスを参考に、生い立ちの物語を瞬時に構成した。


「爺さんは、世に疲れたらしくて隠居していたらしく、世界を知りたければ、大人になって自分で見ろと教えてくれなかったんだ」


「そうだったのか。もしかすると、爺さんは凄い方だったのかもしれないな。それで、ミナトはこれからどうするつもりなんだ?」


ブレイクは、まだまだ聞きたいことはあるが、育ての親である大切なお爺さんがなくなり気落ちしているにも関わらず、無神経に聞き過ぎたと反省して話題を変えた。


「少し早くなったけど、元々旅に出る予定だったし、せっかくだから暫くは帝国にいるつもりだ。でも、金も身分証もないし冒険者になろうかなって」


この世界の情報をインストールした際に、冒険者というものが存在することを知ったミナトは、1番手っ取り早く稼げて身分も確立できる冒険者になることを選んだ。


「俺が、もし貴族ならミナトをすぐにでも騎士として採用するんだがな。いや、養子にして息子にするのもありだな。冒険者には勿体ない力と容姿だと思うぞ」


ブレイクは、顎に手をやって、本当に騎士として育てられないものかと考えていた。


「ありがとう。でも暫くは自由に色々見て回りたいし、冒険者が性に合ってるかな」


「ミナトが、そういうなら仕方ない。まぁ、俺には雇う力もないし貴族でもないんだけどな。アッハハハ。それより、ホスニケムの街が見えてきたぞ」


やっと森から抜け出した先には、高い壁で囲まれた大きな街が見えた。ミナトは、自然と足取りが軽くなる。

それから、門に着くと貴族専用の場所から出入りがあり、一般の場所のように待たずして入ることができた。

そして、ラッセルがミナトのことを同行者だと伝えてくれたようで、身分確認もお金も払わずに済んだ。


「ここから、伯爵様の屋敷に向かうからミナトも一緒に来てくれ」


「わかった」


屋敷に向かう間にブレイクに話を聞くと、どうやらラッセルは、この街の領主とのことだ。


『ラッセル伯爵に関する情報ってなにかある?』


ミナトは、近くにブレイクがいるので、心の中でナノに話しかける。


『ラッセル伯爵に関する情報はありませんが、ホスニケムの発展を見ると善政であることは確かですね。それと、ホスニケムは鉱山の街として有名ですね』


流石に、個人の情報まではないかと思うミナトであったが、ナノがいなければ何も情報がないのを考えると有り難いと思った。


『ありがとう。もし屋敷でアドバイスがあればいつでも忠告を頼む』


『お任せて下さい。ですが、気を付けください。ラッセル伯爵とブレイクは、ご主人様を見定めております。私が、忠告をしなかったのも悪いですが、ご主人様は子供には見えません』


『あ!それはヤバいな。でも、40年間の経験を消すことはできないしなぁ。とりあえず、ナノ様お助けください』


ミナトは、習慣というか経験から来る行動を止めることは簡単ではないので、心の中で神様にお願いをするように手を合わせて助けを求めた。


『私に全てお任せ下さい。それでは、いざ参ろう』


今まで以上に、頼るミナトを見て、嬉しくなったのか、初めて見せるノリのいいナノちゃんが現れた。


「ここが屋敷だ。さっきの対応を見ている限り大丈夫だと思うが、決して粗相のないようにな」


「変なことは口にしないから安心してくれ。それより、でかい屋敷だな」


見上げると、日本にいる時、写真で見たヨーロッパのような大きな屋敷が、そこにあった。しかも、庭も綺麗で庭師が手入れをしている様子も窺える。


「そうだよな。俺もいつか貴族になって屋敷を持ちたいもんだよ」


どうやらブレイクは、貴族になりたいようだ。今も屋敷を見ながらワクワクしたような顔をしている。


「お父様、お帰りなさいませ」


ブレイクと話していると、小学校高学年くらいの女の子が馬車の方へとかけて来る。すると、馬車は止まり中から満面の笑みを浮かべたラッセルが降りてきて女の子を抱きしめた。


「アンジェ、会いたかったぞ〜」


二人は熱い抱擁を交わす。すると、後ろからもう一人女性が現れる。


「アナタ、お帰りなさい」


「エマ、ただいま」


そして、エマとも熱い抱擁を交わす。暫く抱擁と言葉を交わしたあと、ラッセルが二人を紹介をしてくれた。


「ミナトくん、紹介が遅れてすまん。妻のエマと娘のアンジェリカだ。エマ、アンジェ、このミナトくんは、私と騎士達をゴブリンの群れから救ってくれたのだ。今日から数日泊まってもらう予定だからご挨拶しなさい」


ミナトの知らないところで、いつの間にか伯爵家に泊まることになっていた。宿がないので、ミナトからすると渡りに船である。


「妻のエマ・フォン・ラッセルと申します。夫を助けて頂き本当にありがとうございます」


ミナトは、エマを見た瞬間、ラッセルとエマを見比べて若過ぎるだろうと感じた。ラッセルが、40代くらいに見えるのだが、エマはどう見ても20代の肌艶をしている。


『20代ではありませんよ。30代です。見た目を保つために努力されているのでしょう。ここは、化粧水を作って媚を売りましょう』


『ちょっ.....勝手に分析したら失礼だろ?化粧水なんか作れるのか?ってそれよりも挨拶をしないと。化粧水の件は、後でじっくり教えてくれ』


ナノは、勝手にエマを分析したようで、美容に対する探究心が凄いことを見抜いた。そして、ミナトに対し、ラッセル伯爵を味方に付けるアドバイスをする。


『畏まりました。ご主人様』


「ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。私は、ミナトと申します。たまたま通り掛かって運良く倒せただけですから。皆様が無事で何よりです」


ミナトは、足をクロスして綺麗な所作で挨拶をした。


「あら......ごめんなさいね。ミナト様の所作に見惚れてしまいましたわ。それはそうと、運が良かったとしても、大切な夫を救って頂いたことに変わりありません。これも全てミナト様のお陰です。本当にありがとうございます」


「そんなお礼を言われる程では......」などと話していると後ろからぴょこんと顔を出してジッと見てくるアンジェリカがいた。


「挨拶が遅れて申し訳ございません。ミナトと申します。アンジェリカ様、よろしくお願い致します」


ミナトは、ニコッと笑いながら挨拶をすると、アンジェリカは「キャ〜」と言って屋敷に逃げて行った。


「え、えっと、あの......俺、何か気に障ることを言ってしまいましたでしょうか?」


ミナトは、日本にいた頃を思い出して、この世界でも女性に悲鳴をあげられてしまうのかと落ち込む。


「あらあら、アンジェったら。ごめんさいねミナト様」


エマは、アンジェリカが何故逃げたのかを理解しているようで、頬に手を当てながら微笑んでいた。


「娘が失礼をした。申し訳ない」


ラッセルは、ミナトと同じで全く気付いておらず、あとで注意せねばと思っていた。


「いえ、大丈夫ですが......嫌われちゃいましたかね」


『ご主人様は、鈍感主人公ですね。まぁ、それはそれでありですかね。ですが、鏡の前で、しっかりと自分の容姿を見れば、流石に気付くでしょう』


ナノは、これから先幾度となく訪れるであろう女性を落とすミナトを想像して、前途多難だなと思うのであった。

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