第4話 襲われた馬車を救出!護衛依頼!?

湊は、短い時間ではあったが、一礼して小屋に別れを告げる。


『何故、一礼をしたのですか?』


「なんとなくだな。始まりの場所でもあるし、食べ物や剣とか貰ったからさ。日本人の性というやつだ」


『う〜ん!?私にはよくわかりません。人間とは、やはり不思議です。それで、どちらの方向に向かわれますか?』


ナノには、感情がないので文化や風習などの知識があっても、何故湊が一礼したのか、さっぱりわからない。


「こういう時は、これで決めるに限るだろ」


そう言って、剣を鞘に入れたまま地面に立てて手を放す。


「よし、こっちだ」


棒の倒れた方に向かうという一瞬の占いを剣でやった。湊は、あれだけ小屋から出ようとしなかった小心者に見えて、意外にも適当な人間のようだ。


『占いですか......やはり人間は不思議です。根拠のないことを平気でするのですから』


「人間は、優柔不断なんだ。だからこそ、こういうのに頼ってしまうんだよ。まぁ、当たるも八卦当たらぬも八卦だ。とりあえず進んでみよう」


それから、結構な距離を歩いたのだが、何も出会うこともなく魔物も人の気配もない。街道すらも見えない。


『なにもありませんね。やはりあのようなやり方で方向を決めては駄目だったんですよ。それに、そろそろ14時頃になります。早く抜け出さないと野宿になりますよ』


ナノは、太陽の位置から大まかな時間を割り出した。


「もうそんな時間か。少しスピードを上げるとするか」


干し肉を噛りながら森の中をひた歩く。

そして、日が傾きかけた頃に、まだ森の中だが、やっとわだちを見つけた。


『車輪の跡がありますね。最近馬車が通ったと推測します。このまま車輪の跡を追いましょう』


「そうだな。それより、俺全然疲れないんだけど、これも未完の剣豪をインストールしたおかげ?」


日本にいる頃であれば、体重のせいで今頃膝を痛めて地面を這いつくばり、野垂れ死んでいただろうと考えた。


『はい!基礎体力と基礎能力が上がっています。それに加えて、アドレナリンとドーパミンとセロトニンを害のない程度に分泌して、やる気と疲れを軽減させています』


それを聞いた湊は、意味のわからない言葉ばかり出てきて何を言ってるんだとなる。


「う、うん。とりあえず助けてくれているってことだよな。ありがとう」


『はい!ご主人様ですから助けるのは当たり前です。ご主人様、ここから1キロ先で誰かが魔物と戦闘をしているようです』


「ナノってそんなことまでわかるのか?とりあえず人なら街の場所もわかるかもだし行ってみるか」


『ご主人様が聞こえない声も分析可能です。行った方がよさそうですね』


今更ではあるが、ナノの優秀さに改めて気付いた湊は、何故何の変哲もない情けない俺をマッドサイエンティストは選んで注入したのだろうと思う。

だが、今はそれよりも人命救助とこの世界で初めて人と交流できるチャンスだと感じて、大急ぎで向かう。


「あれは、助けた方がいいよな?」


湊が、ナノの指示通りに進んで人が襲われている場所にやってくると、大量のゴブリンが、残り少ないが生き残った兵士を取り囲んで、今にも壊滅しそうになっていた。


『そうですね。このまま行けば1分で魔物に殺されます。早く助けに向かって下さい』


「任せてくれ。初陣を華々しく飾るぜ」


何故急に湊がやる気を出したかという、ナノが勝手にアドレナリンを分泌量を増やしたせいで、興奮と気分上昇で恐怖を薄れさせたからだ。そのお陰で湊は、剣を抜いてそのまま突っ込んで行く。


名もなき未完の剣豪をインストールされた湊は、未完とは言い難い見事な足さばきでゴブリンの攻撃を躱して、バッタバッタと斬り伏せて行く。

ゴブリンは、30体以上いたが、一瞬にして半数になる。すると、一斉にゴブリン達は、徒党を組んで湊にだけ襲いかかってきた。だが、ナノによってアドレナリンを大量に分泌された湊は怯むことなく、足や腰を巧みに使いゴブリンのバランスを崩して斬っていく。あっという間に、残り2体となったがゴブリンは、やっと敵わない敵と判断して恐怖で逃げて行った。


「ふ〜、終わったな」


『ご主人様、お疲れ様です。見事な戦いでした』


そして湊は、未だ呆けている兵士に話しかける。だが、先程から違和感も覚えていた。あれだけ日本で対人関係に悩んでいたにも関わらず、人との交流やこうやって自ら話しかける行動を何故出来ているのだろうと。しかし、今は目先のことを考えようと、その違和感を一旦忘れることにした。


「大丈夫か?仲間の手当てをした方がよくないか?」


「あ、あぁ、そうだな」


そう言って、兵士は仲間の手当てをしに行く。見渡して見ると数人は命を落としているのが見て取れた。湊は、死体や血を見ても、何故か冷静で、日本人の性が出てしまい、静かに手を合わせる。

暫くすると治療が終わったのか、先程の兵士が湊に近付いてきた。


「先程は、助けてもらい感謝する。私は、アランデル・フォン・ラッセル伯爵様に使える騎士団長ブレイクだ。ラッセル様がどうしてもお礼を言いたいとのことで、ついてきてくれないか?」


『ご主人様、要らないお節介かもしれませんが、名乗る時はミナトと言ってください。この国で名字があるのは、貴族だけですから』


ナノは、すぐさま湊にアドバイスをした。湊は、心の中で「ナイス。ナノ!ありがとうな」と言う。


「俺は、ミナトだ。ついて行くのは構わないが、礼儀作法など一切分からないが大丈夫だろうか?」


「礼儀作法は気にしなくて構わない。そのようなことで怒るお方ではないからな。しかし、武器だけは預からせてくれ」


助けてはもらったものの、まだどんな人間かもわからない以上、念のため武器を預けるように言われた。

ミナトからしても、騎士であれば当たり前の行動だと判断して剣を、何の躊躇もなく言われた通りにブレイクに預ける。


「ミナトを信用していないわけではないんだ。申し訳ない」


「気にしてないさ。子供とはいえ、見ず知らずのやつが、貴族様と会うんだ。当たり前だろ」


ブレイクは、先程の剣技でも驚いたが、この数回のやり取りだけでも子供とは思えない考え方と騎士を見て憧れや恐れではなく堂々とした立ち振舞に大人と会話しているのではと錯覚してしまう。


「あぁ、そう言ってもらって感謝する。では、伯爵様のいる馬車に案内しよう」


ブレイクが、先導を切って馬車に向かい、馬車の扉を叩く。すると、中から一目で偉いとわかるほどの貫禄とオーラを身に纏った壮年の男性が下りてきた。


「馬車の中から君の勇士を見ていた。君が助けてくれなければどうなっていたことか......ありがとう。私は、アランデル・フォン・ラッセルという。それで、度々申し訳ないのだが、街までの道中の護衛をしてくれないだろうか?街に着いたら護衛料は支払うので頼む」


ラッセルは、伯爵にも関わらず嵩にかかる様子は全く見せず、威厳を保ちながらも、子供の見た目のミナトに対してお礼とお願いをした。


「ラッセル伯爵様、お会い出来、光栄でござます。たまたま通りかかっただけですので、気にしないで下さい。それから私は、ミナトと申します。護衛ですか?私もちょうど街に行きたいと思っていましたので、その依頼喜んで受けさせて頂きます」


ミナトは、インストールされた礼儀作法を屈して、片膝を突き、一度頭を下げたあと、返答した。

その様子を見たラッセルとブレイクは、一瞬だが、驚いてしまう。


「そうか。では、よろしく頼む。ブレイク聞いたな?ミナト殿が護衛についてくれる。頼んだぞ」


「お任せ下さい。ミナト殿がいてくれるなら心の強いです」


ラッセルとブレイクは、この時完全にミナトのことをただの子供ではないと勘付いていた。今はまだ、探りを入れる時ではないと、二人は先を急ぐことを優先したが、ミナトへの興味が増すばかりであった。

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