第3話 怖いんじゃない!危機管理能力が高いだけだ!

湊は、お腹が空いたので棚にあった干し葡萄と干し肉を食べていた。いまだに、一歩も外に出ていない。


『そろそろ外に出られてはいかがですか?』


「いやいや、腹は減ってはなんとやらと言うだろ?とりあえず食ったら考える」


粗方小屋の中は見終わり、あとは準備をして外に出るだけだと思っていたナノだったが、一向に冒険の第一歩を踏み出そうとしない湊に痺れを切らせていた。


『私は、ご主人様の思考も読めるのですよ。見知らぬ世界を恐れているのは丸わかりです』


「ナノ......怖いんじゃない!危機管理能力が高いと言ってくれ」


『はぁ〜こんなご主人様で大丈夫でしょうか?』


もし、ナノに顔があれば呆れてヤレヤレといった表情をしているのだろう。

だが、そんなことはお構いなしに湊は食事をする。


「あ〜食った食った。案外干し肉と干し葡萄もうまいもんだな。そろそろ、動くとするか。ナノ、この世界の情報があれば教えてくれないか?」


『やっと動く気になりましたか。この世界についての情報ですね。あまり情報はありませんがインストールします』


かなりの情報量が頭に入り込んでくる。頭が割れるような痛さになり、耐えきれなくなった湊は、「ぐぁぁぁぁ」と叫びながら気を失う。


『この量ですら人間の許容範囲を超えてしまうようですね。次からは気をつけないといけません。それより、破壊された脳細胞の修復をしなければ』


情報量が多すぎたため、脳が耐えきれず破壊されてしまった。このままでは、植物人間になってしまうので、ナノは早急に治療を始める。


「ぶはぁ......はぁはぁはぁ、生きてる?」


湊は、体が跳ね上がる勢いで目覚める。


『ご主人様、お目覚めになられましたか!』


「ナノ俺を殺す気かぁぁ!今後いいというまでインストール禁止!本当に死ぬかと思ったからな。それより、さっきインストールしてくれた情報のほとんどが記憶にないんだけど、どういうことだ?」


あれだけ痛い思いをしてインストールしたはずの情報がほとんど欠落しており、この世界の情報をほとんどわからない。


『人間が一度に蓄積できる記憶量を超えてしまったせいです。私のミスです。申し訳ございません。圧縮してもう一度インストールすれば全ての情報を記憶に留めることが可能ですが、どうされますか?』


「いや、圧縮とか怖いし、また吐いたりぶっ倒れたくないからインストールしなくていいや。基礎的なことは、なんとなく理解できた。でも、このまま魔物とか盗賊に会ったら簡単に死んじゃうよな。何かいい手はないか?」


ナノマシンであるナノは、痛みや苦しみなどを言葉では理解しているが、感じたことがないので、1くらいの軽いノリでインストールを開始しようとした。


『そうですね。ナノの記録にあるのは、未完の剣豪だけです。ある程度強くなれますよ』


このようなチート的な使い方も出来るのかと驚くが、何故ナノを作ったやつは、無双できる賢者や剣聖や何かの達人のような最強ではなく、未完成な剣豪の情報を植え付けたのかと疑問に感じる。しかも、未完成な剣豪の情報のために、また気を失う程の激痛を伴うのかと頭を抱えた。


「はぁ〜またインストールか......切っても切れない関係だな。痛いのは懲り懲りだけど、死ぬのは嫌だから未完の剣豪でも、何もない俺には必要だな」


『畏まりました。しかし、戦闘に耐えうる肉体を再構築致しますので、激痛が伴いますがよろしいですか?』


それを聞いた湊は、更に全身の激痛まで味わうのかと頭を抱える。しかし、この世界にいる魔物の情報や盗賊などの情報を加味すると未完の剣豪だろうとないよりは、ましだろうと考えた。


「ナノ!やってくれ」


『畏まりました。インストールを開始します』


その直後、今まで経験したこともない激痛に声も出ないまま意識が途絶える。


『人間とはやはり脆い生き物ですね。ですが、ご主人様の魔力が増えれば、腕がもげようが足がもげようが再生可能ですので、思う存分この世界を楽しんで下さいね』


ナノは、独り言を呟きながら、湊の肉体を再構築するのであった。


「ぶはぁ、ゲホゲホゲホ......なんとかまだ生きてるみたいだな」


『おはようございます。ご主人様!無事インストールと肉体の再構築完了致しました』


それを聞いた湊は、自分の体をペタペタと触る。そして、服をまくり上げて腹を見る。


「な、な、なんじゃこりゃ〜!なんでこんな綺麗に腹筋が割れているんだ?それに、腕の筋肉も......ナノのこと改めて凄いと思ったわ」


子供ながらに引き締まったシックスパックの腹筋に驚く湊。しかも、剣など振ったことがないにも関わらず、脳内に剣の握り方や振り方や動きまでの情報が記憶されていた。


『やっと私の凄さがわかりましたか?それで、ご主人様はどこを目指されるのですか?』


「ここが、どの位置かわからない以上、目指せるかはわからないけど、アブール共和国に行きたいかな。獣人・エルフ・亜人・魔族・人間が共存してる国とか見てみたいだろ?」


湊は、旅に使えそうな物を物色しながら妄想を膨らませる。


『私には、理解できませんが、ご主人様と共に歩むだけです。まだ場所が不明である以上、まずは言葉を話せる方を見つけて下さい』


「そうだな。数日分の食料と水を持ったし、そろそろ行くとしますか」


ショルダー式の鞄が置かれていたので水と食料を入れて、胸当てと剣を装備して、家の扉を開ける。すると、そこは平原で周りを見渡しても何もない場所であった。


「これは、前途多難だな......」


『そうですね。このような場所は、いくつも存在しますので、予想が付きません』


湊は、後頭部を掻きながら、「ハァ〜」とため息をつくのだった。

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