第16話:ストーカーの正体が信じられないんだが


「あたしと隆志は付き合ってた」


「え⁉」


「隆志と付き合ってたのは、私の方。ストーカーはあの女の方!」



 それは、衝撃的すぎた発言だった。


 なんとなく予想はしていたけれど、まるっきり逆の話が彼女の口から出てきたのだ。でも、それでは話の辻褄が合わないところがあるはずだ。


 俺はいま、俺の部屋で藍子さんと暮らしているみたいだった。珊瑚さんが彼女で、藍子さんがストーカーだと仮定してもこの事実は変わらない。



「俺と藍子さんは俺の部屋で暮らしているみたいだったけど?」


「みたいだった? この場合『暮らしているけど』じゃないの?」



 この時間の俺は電球を交換しようとしてぶっ倒れて頭を打ったらしいが、そのタイミングで珊瑚さんと藍子さんが入れ替わってるのはおかしい。藍子さんは料理をしていたみたいだった。


 俺が倒れる前、つまり、今の俺がタイムリープしてくる前からこの時間の俺と藍子さんは俺の部屋で暮らしていた。やはり辻褄は合わない。



「隆志、変なこと言ってたよね? タイムリープって」



 そうだった。貴行にLINE送ったから珊瑚さんにも俺がタイムリープしていることは伝わっているんだった。



「そんなこと、現実に起こる訳がない! タイムリープが間違いよ」



 断定する珊瑚さん。


 普通そう思うよねぇ。ただ、俺の場合本当だ。俺には2021年までの記憶しかない。自分でネットを調べたりして把握しているので、誰かに情報操作されたりしたわけじゃない。


 2021年にいた俺が何かの理由で突然2022年に来てしまっている。しかも、電球を交換しようとして倒れた俺の意識だけが入れ替わっている。



「もし、タイムリープなんてあるんだとしたら、元々いた隆志の意識はどこに行ってるって言うの⁉」



 その疑問もっともだ。俺がこちらにいるくらいだから、この時間の俺は昔(2021年)にタイムリープしているのかもしれない。


 通常マンガやアニメで取り上げられるのは、あちらのルートで俺のルートはその裏側で取り上げられたことも無いようなルート……とか?


 だとしたら、俺が過去に戻れないのも理解できる。なにかトリガーになることは過去(2021年)に行った俺が見つけることになるのだから。



「私たちが付き合い始めたのは去年の6月ごろ! 約6か月付き合って、あの部屋で……隆志のあの部屋で半同棲みたいな生活をしていたわ!」



 珊瑚さんが一生懸命説明してくれているけれど、2021年の冬頃の記憶なんて俺にはない。タイプリープしていったこの時間の俺との思い出だろう。



「ストーカーに最初に気づいたのは隆志だった! 私はそのときまだ信じてかったの!」



 ストーカーとか確かにあまり現実味がない話だ。俺にストーカーがいるということ自体まだ信じられないし。



「夜中に……私たちが寝てる間にあの女は勝手にアパートに忍び込んで隆志を誘拐して行ったのよ。私はしばらく意識不明で……気づいたら1か月経ってた」


「(……)」



 珊瑚さんの表情から嘘ではないことは伝わった。



「それで? どうなったの?」


「信じてくれるの⁉」


「珊瑚さんは嘘を言う人じゃなかった。嘘じゃないと思う。ただ、俺の知っている事実と違うこともある。だから、話を聞いて判断したい」


「いいわ。それでも」



 俺たちは、改めてベンチに座って情報を交換することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る