第15話:珊瑚さんに拉致られたんだが
「貴行が病院送りにされたって……会えますか?あいつに」
俺は珊瑚さんの運転する白いバンに乗せられて移動している最中だ。彼女の運転するバンは市内を抜け海に近いところまで走って行った。
珊瑚さんの言葉を確かめたいというのもあるし、本当に病院送りにされたのならば友人として見舞いたい。
「ごめんね。いま病院は誰も面会できないんだ。コロナの関係で。どこもそうらしいよ」
そうなのか!? 俺がいた2021年では面会しにくいとか聞いたことはあるけど、完全に面会できないとか本当なのか!? じゃあ、どうすんだよ。おじいちゃんとかおばあちゃんが入院したらさ!
「あと……覚えてないかもしれないけど、隆志のお父さんとお母さんも……」
「はあ⁉ 俺の父さんと母さん!?」
「そっか、そう言うことか……ちょっと車止めるからゆっくり話そう」
*
移動した先は断崖絶壁があるような崖。火曜サスペンスならば犯人が追い詰められて、刑事が自白を迫るような場所だ。
「ねぇ、こんな危なっかしいとこに来た意味あるの?」
「ここを選んだ理由は3つ。1つ目は、あの女は異常ってこと。スマホのGPSとかでどこまでも追いかけてくるわ。ここはさすがに電波届かないでしょ」
それは本当だろうか。確かに、めちゃくちゃ俺のことを心配してくれていた。別に実害がないのならば、それは「愛情」としていいとは思うのだけど……
あと、いくら崖でもきょうび各キャリアの電波は届くだろう。海の上でも届くと聞いたことがあるし。
「2つ目はね、2人きりになりたかったから。隆志が忘れてることを伝えないといけないでしょ」
そういえば、珊瑚さんが俺のことを「隆志」と呼んでいる。昔、貴行んとこに遊びに行った時は「隆志くん」だったと思う。大学に入学して、その後なにかしらの交流があったということだろうか。それで、今までより仲良くなったとか。
「3つ目は、万が一あの女が来ても、すぐ分かる見通しが良いところってこと」
「『あの女』って藍子さんのことだよね? 珊瑚さん、藍子さんと何があったの⁉ あと、そのケガ……」
「ホントに全然覚えてないんだね!」
珊瑚さんの顔が物凄く近づいた。場所は崖の上。下を見れば断崖絶壁。流石に危ないから、崖の近くには柵ができているので、わざわざ飛び込もうとしない限り崖から落ちることはないだろう。
一応、公園のようになっているので、ベンチも備えてある。俺は落ち着かないので、座らずに立っていたけど、珊瑚さんも座らず、俺の真正面に立っていた。
「このケガはあの女に後ろから殴られたの。1発目に頭を、2発目は反射的に腕を構えちゃって……うちの場所はバレてるから夜以外帰れない」
「夜?」
「そ、夜は、必ず隆志の家にいるでしょ?」
「よく知ってるね」
「あの女は、隆志が寝てる間を狙うわよ。昏睡するなにか薬品みたいなものを打つの」
「え⁉」
「貴行もそう、あなたのご両親もそう。……隆志、あなたも……」
「え⁉ 俺!? 俺は大丈夫だよ? ここ数日、夜は藍子さんと一緒だけど」
「薬の準備ができてないのよ。だから昼間は抜けないといけない。昼間いないでしょ?」
「昼間は、大学とバイトでしょ」
「あの女、とっくに大学も行ってないし、バイトはそもそもやってないわよ」
「……」
「家がお金持ちだし、ちょっとしたお嬢様でしょ?」
俺の中に答えがない。彼女が言っていることが本当かどうか分からない。彼女のこのケガだって本当かどうか分からないのだ。
何を信じて良いのか分からない中、珊瑚さんから衝撃的な一言を聞くことになった。
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