第14話:珊瑚さんに聞いてみたんだが
「ストーカーは藍子さんの方で、珊瑚さんは俺を助けに来てくれたってこと?」
『ごめん、その質問には今 答えられない。隆志のアパートの前に事実が分かるものを置いたから、それを見て』
なんだよ、持って回った言い方。俺のアパートの前に? ちょっとドアを開けて覗いてみたけど、特に何も見えない。
俺のアパートはドアを開けたらすぐ駐車場で、車が横に3台並べられ、その前は道路という造りだ。
玄関ドアを開けたら道路が見えるから何か置いてあったらすぐ分かるはずなんだけど……
意外に小さいものなのか? ここからは死角の位置に置かれている? 宅配便なのか、いつもと違う白いバンが停まっていて、邪魔で道路がよく見えない。
俺は靴を履いて、ドアを出た。
「ごめん!乗って!」
ガラリとバンのスライドドアが開く音と同時に女性の声が聞こえた。
そして、流れるように目の前の白いバンに押し込まれた。全力で抵抗すれば何とかなったと思ったけど、バンに乗り込んだのには理由がある。
その声の主は、スピーディーに運転席に乗り込むと そそくさとバンを発車させた。
「携帯電源切って!」
チラリと後部座席のこちらを見たその人は、珊瑚さん。俺は、言われるがままにスマホの電源を切った。
彼女は先日のケガでまだ片腕を吊っていた。アームスリングと言ったか、首にベルトをかけて腕を吊る帯を付けていたのだ。頭の包帯も痛々しい。
俺を本気で襲おうと思ったらこんな状態で来るわけがない。
「ごめん! ちゃんと説明するから、ちょっとだけ拉致されて!」
何と言っていいのか分からないけれど、俺は彼女に危険性を感じていなかった。俺のストーカーかもしれないのに。
ただ、俺の首に付いた無数の噛み跡は異常だ。今朝、玄関の新聞受けに入れられていた生ごみは、珊瑚さんでなくてもできる。俺は別の人物を疑っていた。
それは、藍子さん。
あんなに可愛くて、俺のことを好きでいてくれるのだけど、大学にも行かず、バイトにも行かない俺をあんなに甘やかしてくれるものなのか!?
しかも、珊瑚さんが乱入してきたからと言って、包丁を構えて応戦するってのは、ちょっと常軌を逸している。
橋本(貴行の方)が病院送りにされたってのも気になる。
この事実を知ったら、きっと俺は現在(2021年)に戻るのではないかと本能的に察していた。俺はこの悲劇を回避するために未来(2022年)に来たんだ。
多少疑わしくても、俺は真実を知る必要がある。そうしないと、現在(2021年)に戻る意味がないのだから。
そして、真実を知るためには、目の前の珊瑚さんから話を聞く必要がある。
後付けの言い訳としては、彼女が俺を殺す気だったら、アパートの前で車で轢けば良かったはず。そうせず、バンに押し込んだのには理由がある。
……そうだよね? そうであってくれ! そうでないと俺に次の手などないのだから。
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