墓標なき墓地

 我々は再び袋ごと運ばれた。


 ざんっ、と勢いよく降ろされた我々は袋の中で互いにぶつかり、メックキングの左の足が私の右腕に強く当たって彼と私のジョイントが同時にきしみを上げた。


「お願いします」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 なんだ? 何かの店?

 ゴミ処理場にしては様子がおかしい。

 かすかに聞こえるスローテンポのBGM。エアコンの効いてるであろう空気。ゴミの匂いもない。

 私が動かせない首をかしげていると、我々の詰まった紙袋を受け取った担当者が、次々と中身の我々を取り出し始めた。


 眼鏡を掛けた若い女性だ。

 黒に近い紺色のエプロン。やはり何かの店舗のようだ。置かれたのはブラウンウッドのカウンターの上。控えめな照明と一定間隔で並ぶ陳列棚。

 彼女は私たち一つ一つを持ち上げ、回し、裏返して確かめ、何かをパソコンに打ち込む。

 彼女は私をカウンターの上に置いて、私は数年ぶりに自分の足で直立した。


 リサイクルショップ!


 私は全てを理解した。

 母親は我々を捨てるのではなく、売却することにしたのだ。

 私の目の奧のLED球にほんの少しだけ光が差したように感じた。

 隣には、かつてのようにメックキングがすっくと立って、そのメッキパーツが店内の灯火をキラキラと跳ね返している。彼も心なしか背筋を伸ばして堂々としているように見えた。


 そうだ。ここで商品として再び店先に並べば、年頃の子供に手に取って貰えれば、再び玩具おもちゃとして、誰かのヒーローとして活躍できる瞬間が来るかも知れない。


 結論から言えば、その私の考えはまた間違っていた。


「箱がないものは値段が付かなくて……十一点全部合わせて四百二十円ですね。よろしいですか?」

「構いません」


 母親がそっけなく了承する。


 それが我々の、この墓標なき墓地での日々の始まりだった。

 

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