心共鳴

「刃猫ォオオオオオ!!!!.........」



 号哭。


 憤り。


 そんな感じ。



「和泉守.....」

「心共鳴トハ忌々シイッ.....」



 右手には、いつもの刀が握られていた。



「ッ...... 解ッ......」



 愛呪から溢れ出す感情。


 これは何だ。


 絶望か?


 まるで絶叫。


 感情の大量出血。


 そんな感じ。



「......」



 愛呪が人の形に近づいた。



「鏡音サンヲ――」

「――人間風情ニ何ガ分カロウ」



 突。


 今日一の一撃。



 俺の刀が、


 絶望が、


 簡単に折られそうで、










 意味の分からない絶望への嫉妬と、











 和泉守への同情で、












 頭がおかしく、なりそうだ。



















 次の瞬間、


 折れそうな刀への意識は、


 簡単に削がれた。



 その時の俺は、


 何よりも先に、



 和泉守の胸に渦巻く、



 涙粒よりも小さい、その光に、




 触れたくなっていた。





 そうして、手を伸ばす。



 触れた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「――奴を置かせて欲しいと.......」

「頼むニャッ..... 責任はミャーが持つニャッ.....」



 頭下げネコ。


 村の長。



「責任は課されなければならない。村の者が、納得する様な、条件を、用意しなければならない。」

「じょ、条件?........」

「......... 万が一、奴がこの村の者に危害を加えた時は.....」



 冷え込んだ感情の波。



「お主が奴を処せ」

「ッ.......」



 揺れる瞳。



 刃人は.....


 皆が皆ッ.....


 悪人では無い筈ニャッ.....



「出来ぬのなら――」

「――分かったニャッ........」

「最も。村の者がそれで良いと言えばの話だがな。」



 無論、村人達は、反対した。



 刃人など死神と同等。


 そんな事を言う者まで現れた。



 そうして一人の刃人を巡って、罵声は三日三晩飛び交い続けた。



 三日目。夜。



「――猫又、諦めろ。我々は良くも悪くも強靭な種族だ。人間共とは何もかもが違いすぎる。」

「........... 何にも......」

「?」



 言いあぐねネコ。



「強靭な種族が.......」



 潤んだ声。この表現は正しくないのかもしれない。


 ただ私は、その時、それを聞いた。



「おにぎり食って泣く訳泣いニャッ........」

「!?....」



 やッ.......



「やはり同情しておるじゃろ貴様ッ!!!!」

「同情させる方が悪いニャ!!!!」



 反抗したかと思えば、騒ぎ始めた。


 騒がしい女だ.....



「それに同情だけじゃニャいニャ」

「?」

「ミャーは面食いニャからニャ♪」



 笑みネコ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 四日目、早朝。


 村人達は、呆気なく折れた。


 これには流石に、鏡音ノネコも驚いた様で、



――も、もういいニャ?



 なんて腑抜けた顔で抜かしおった。


 アレは傑作だった。


 あの腑抜け顔は、今でも我を笑わせる。



「兼重。それを取れ」

「....コレか」

「.....」



 村の者は、我の存在を認めようとしなかった。


 そんな中、唯一、我を置くと言ったのが、この鍛冶屋。


 この店の主は、何故、我を置いたのか。


 未だにわからぬ。



「主よ」

「何だ」

「何故、主はそれ程までに無で鋼を打つ」

「....... 俺に関係ないからだ。」



 静まり返った空間に、鋼を打つ音が響き渡る。



「刃物も親を思うぞ」

「......」



 打つ手が止まる。


 刻一刻と、静寂が歩みを進める。


 そうして、主は、再び打ち始めた。



 今度はもっと、速く。


 気持ちが籠った、そんな音で。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 が、積み重ねた日々は、


 いとも簡単に、壊された。



「主ッ!!!」



 明らかに不自然な動きで、刀が頭上から降ってきたのだ。


 大量出血。



「兼重ッ.......」

「主ッ!!!!」



 ずり落ちそうな刀を支える。


 誰かおらぬのかッ!!....



「直ぐに医者をッ――」

「無理だッ...... 人はこれ程に脆いのだッ........



 鍛冶屋が兼重に触れた。



「最後に聞かせよッ.....」



 鍛冶屋は覚悟を決めていた。


 そうして、問う。



「お前は俺をッ..........................」



 鍛冶屋が死んだ。


 刺さっていた刀を片手に、その場に座り尽くしてしまった。



「主...............」

「兼重ッ!!..............」



 猫又、村の長。



「何があっ――」

「――殺ったか刃人。」



 鏡音の声に被せるように、村の長はそう言った。


 想定もしていない択を突き付けられた貴様は、その様な顔をするのだな。



「ッ!?........ ち、違うニャ!!! ひ、否定しろニャ!! 兼重!!」



 村の長の策略か、術か。


 その時の我は、動けなかった。


 ただ同時に、そんな事は、どうでもよくなっていた。



「兼重ッ!!..........」

「.......」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 そうして我は、かの刃猫に処刑される事になった。


 最早何も、我には無い。


 錠が付けられた兼重を、多くの村人が囲んだ。



「――さぁ、場は整った。あとは――」



 声が歪んだ。


 我は、この世に拒絶されたのだ。


 気付くと刃猫は、我の前に立っていた。



「――いのニャ!!?――」



 必死に何かを訴えている様子だった。


 憤りか。


 我が主を殺めたと。


 そう思うのだな。



「アアアァァァァ!!!!!」



 刃猫は、白炎を纏った右手を振り下ろした。



 我は貴様に救われた。


 貴様に殺される事。


 唯一悔いのない殺され方かもしれん。


 貴様になら、我は殺されても、良い。



















――我ハ貴様ニ、信ジテ欲シカッタ。















―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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