ミコチャ

 そうして3時間が経った。


 秋葉原に異変はない。



「クリスタ。本当に俺ら動かなくていいんだよな?」

「えぇ。動くなって釘刺されましたから...」



 動かない事。


 意外にも苦なのだ。



「おいアレ....」

「アイドルですかね....」



 アイドルですかねぇ... か。



 天下無双のアイドル様、


 巷のアイドルに興味無しと。



 アイドルは壇上に上がり、話を始めた。



「よく来てくれた! 君達!――」



 そうして5分、10分、20分... 演説アイドルを囲む人の群れがそこそこ大きくなった頃。



「――じゃあ! そろそろ!――」



 演説アイドルの感情が、突如として昂った。


 咄嗟に振り返る。



「――解♡」



 次の瞬間、演説アイドルを囲んでいた人の群れの8割が、愛呪と化した。


 愛呪が残りの2割を狙う。



「それはダメです!! 痛い!!!」



 丸腰のアイリスが割って入る。


 エヴォは域に電話を。



「おい。人間が愛呪に化けたぞッ....」

「突然か?」

「そうだッ....」



 域は待っていたかの様な反応を示した。



「応戦は」

「クリスタが人間を守ってる!! 愛呪倒さずにな!!!! 今すぐ戦闘許可を出せ!!!!」

「駄目だ。解体員は応戦せず、待機だ。」



 空を強く噛み締める。



「いいか、コレは希望じゃねぇ。早くしねぇと――」

「――ったく。1分も待てねぇのかテメェは。」



――親譲りか。コレも....



「いいか。あと10秒だけ待て。待って何も起きなきゃ、好きに戦えばいい。」

「ッ.....」



 エヴォが、愛呪とアイリスの間に立ち塞がった。


 愛呪達がエヴォに殴り掛かる。



「痛ってぇなテメェ!!」

「ハートさん!? 駄目ですよ!! 私は人刃だから止めに入っただけで!! 生身で来ちゃ駄目です!!!」

「人とか犬とか愛呪とかッ... 味方なら関係ねぇだろ!!!!」



 エヴォ、吐血。


 アイリス、何故か赤面。



「な、何言ってるんですか!!!!」

「言及禁止ッ.....」

「そんなの最早プロポーズじゃないですか!!!」

「???????」



 何言ってんだコイツ.....



「だ、駄目です!!!」

「だから何言っ――」



 次の瞬間、愛呪共からの雑な攻撃が、突如として止んだ。



 一体何がッ.....



 背筋が凍るとか、冷や汗が止まらないとか、そんな感じ。


 まさにそれ。




 否、更に恐ろしい。




 愛呪共が放つ感情の波が、
















 その瞬間、完全に途絶えたのだ。














 LEVEL5かッ.....


 最早ッ.... 奴しかッ......




 恐る恐る。


 恐れながら。


 気持ちを固めるかの如く振り返る。
















 チョコン。


 全ての愛呪の首が飛んでいる。


 そんな異様の中、


 刃物を持って仁王立ちをしていたのは、3頭身の幼女だった。



「かぁぁぁわぁぁぁいいいいいいいい!!!!」

「待てクリスタァ!!」



 それはマジでヤバ――



「――い?......」

「ふふ〜ん♪」



 アレ?


 頭を撫でられた幼女はご機嫌のご様子だ。



「お名前はぁ〜?」

「ミコチャ!」

「そ〜う♡ ミコちゃんって言うのぉ〜♡」

「ミコチャ!」



 プルるるるる。



「おい。どういう事だ。」

「何がだ」

「何がじゃねぇ。何だこの化け物幼女」



 絶対何か知っててしらばっくれてやがるこのジジイッ....



「ミコチャ・スカーレット」

「やっぱ知ってんじゃねぇかッ....」

「そいつは恋愛解体師だ」



 恋愛解体師。


 非合法下で、解体活動を行っている者達の総称。


 その歴史は江戸から続いているのだとか。


 なんでも、一般の解体活動が非合法化されたのもここ半世紀以内の出来事なのだそうだ。



 つまり今回の目的は...



「スカウトしねぇからな?」

「しろ。」

「.........するわけねぇだろイカレジジイが」



 ブチッ.......


 切ってやった。



「――お嬢ちゃん、どこから来たの?」

「アキバスター!」

「えぇ!?」



 やはりか...



「ハートさん!」

「分かってる。域はソイツを恋九に入れる気らしい」

「えぇ..........」



 てか待て。



「おい姉様はどうした?」

「さっきからずっと出て来ないんだよ....」



 ....妙だな。


 アイリスに近づく。



「姉様?」

「ふぇ? ハートさん?????」



 瞳を覗き込む。



「姉様ァ?」

「近いですッ///」

「おい年増メイドコスロリバ――」



 てっけんせいさい。



「ッ..... 出られるじゃねぇかッ.......」

「次同じ様な事を言えば、貴様は余生をあの世で過ごす事になる。」

「気が立ってんな。何があった。」



 姉様、お目目逸らし。



 おいちょっと待て。



 あのガキ何処行った。



「まといがたな!!!!」

「ミコちゃん!?」



 電車の側面に張り付いていたのは、先程の幼女だった。


 そうしてそのまま、幼女の姿は見えなくなった。


 それより.....



「纏刀だと.....」

「ハートさん!!! 追いかけなきゃ!!!」

「はぁ..... 移動代は経費で落ちるのか?」

「分かんないです! 行きましょう!」



 はぁ.... なんて言うか。はぁ.............

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