域仁

「...剣の方が... 強いと思う。」



 雨音がッ... 刃物持ちッ........



 体はもう、動かない。



「全部ッ...... 知ってて.....」

「何も知らなかった。此処での私は、ただの雨音歩だったのだから....」



 恋愛解体師。


 今でこそ、恋愛解体員なんて呼ばれ方をしている彼らの性質は、昔と大きく異なる。


 愛呪を殺し、益として喰らう。それが今の恋愛解体。


 間違えている。何かを。



「ワスレテ。」

「アンタは、絶対忘れないッ.....」



 きりかかる。


 斬り続ける。


 忘熱線が各方向から凄まじい速度で襲いかかって来る。


 忘熱線は、触れればタダじゃ済まない。


 触れた部位から焼き切られた挙句、記憶改変まで受ける。


 三級愛呪 - 忘人は、それ程までに、危険な愛呪なのだ。



 もう、可美の記憶が何処まで残ってるかも分からない。


 それでも私が、誰なのか、覚えている。



「逃げルなアアア!!!!!」

「ワスレテ。」



 貴方にとっての私は、



 それ程に大きくない筈なのに.....



 死にかけてまで..... 何が目的なの........



「お前ハァァァアアア!!!!!!」

「アテタ」



 手元が狂い、抜けた忘熱線が頬を掠める。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 神社。


 石畳。


 目の前には、小さな私の姿があった。


 コチラを睨みながら、木の枝を強く両手で握り締めている。


 後ろには、男の子。


 アレは......



「まさかッ.....」



 可美だ。


 そして振り返ると、そこには迫り来る愛呪の姿があった。


 LEVEL5 - カオスだ。


 この愛呪を私はよく知っていた。


 可美が姐さん姐さんと慕う、姐御分だ。


 名を、花咲華恋と言った筈。


 この後どうなったか、今となってはよく思い出せない。


 何故、今となってこんな事を思い出しているのだろうか......



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「ワスレテ。ワスレル。アツクワスレロ。」



 オーブが気絶している雨音に歩み寄る。



「君ノキミヲ」



 忘熱線が雨音を貫いた、


 と、思われた。



 老人。


 忘熱線を受けたのは、白髪の、妙に姿勢が良い老人だった。



「三級か... 近頃は、貴様ですら珍しい」

「ワスレテ。」



 可美が視線を向ける。


 すると老人は、胸に手を当て、


 紙を引き抜いた。



 先見師だとッ...................



 そうして可美も、意識を失ってしまった。



「愛呪、一、死亡....」

「ワスレテエエエエエ!!!!!!」

「私が域仁であると知っての狼藉か?....」



 次の瞬間、虚空に記されたのは『不可』の二文字。


 愛呪が宙に止まった。


 老人は書き続ける。



「万死――」

「アアアアアァァァァ!!!!!」

「――新淵。」



 次の瞬間、愛呪は一点に纏まるように圧縮された。


 そうして、爆散。



 LEVEL4 - オーブ、撃破。



「さァて、この餓鬼共は...... どうしたものか」

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