ペンは剣よりも強し?

 あれから三日。


 気まずい。


 生徒会室はそんな雰囲気に覆われていた。


 静寂が、鼓動の大きさを演出する。


 すると、雨音が口を開いた。



「可美....」

「....」



 可美は返事を返さない。


 延々と、淡々と、考え込んでいる。


 私の知らない所で、私の知らない何に怯えて。


 ずっと。



 時間は進む。


 簡単に。


 そうしてやがて、日が暮れる頃。


 ソレは来た。



 絶望を噛み締めた様な苦い表情で、何かを見つめる可美。



 窓の外の何かを。


 ただその一点を。


 見た事ない様な目で見つめていた。



 そうして私は咄嗟に振り返った。



 するとそこからは見えた。


 熱線防壁をよじ登る愛呪の姿が。



「来たかッ.....」



 そう言って可美は、生徒会室を飛び出した。


 私なんて居ないみたいに。


 私を押しのけて。


 扉に向かって。



「ッ...... 可美ッ........」



 そうして、雨音は気を失ってしまった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 愛呪 - オーブ。


 LEVEL4。


 目を逸らす様に、それに対峙する俺は、


 刃物も持たぬ、非力な人間。


 そんな非力な人間が、無から力を得る方法はただ一つ。



「......」



 可美は、胸に手を当てた。


 そうして引き抜く。


 命の紙を。



「モウ、オモイダセナイ......」

「愛呪、一、生存。」



 先見紙。


 求める者の命を削り、未来を知らす、命の紙。


 そうして、寿命を3ヶ月削って得られた先見は、酷く、残酷なものだった。



「センケンシ...」

「何だとッ...」



 オーブは、記憶を失った、人の獣。


 人としての記憶を全て失ってしまった愛呪、それがオーブなのだ。


 そんな愛呪が、何故.......



「纏....... ガタナヲ!!!!!!........」



 何かを言いかけた愛呪の意識が突然飛んだ。



「ワスレテ。」

「!?」



 愛呪の背から、橙の触手の様なモノが生えてきた。


 あれはッ.......



「熱線防壁のッ.........」

「イタイモワスレテ。アツクワスレロ」



 握り締めていた先見紙を地面に落としてしまった。 


 落ちた先見紙をふと見下ろすと、見覚えの無い記述が目に入る。



――忘熱線。記憶改竄、熱切断。



「忘熱線ッ....」



 何かは分からない。


 ただ、先見紙はきっと、アレに触れてはいけないと言うことを、伝えたかったのだろう。



「3ヶ月じゃ、割に合わないなッ......」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「......... まだ............ はッ.....」



 生徒会室。


 雨音が目を覚ました。


 見上げた先は、生徒会室の天井。


 夕陽に紅く照らされた、生徒会室の天井は実に神秘的に見えた。



「可美ッ......」



 行かなければッ.....


 ふらつく体に鞭を打ち、歩け歩けと歩き出す。



 廊下に出た。


 鳥肌が止まらない。


 あちこちが崩れかけている。


 壊れた校舎に驚いているのではない。



 どうして。


 考えれば考えるだけ恐ろしい。



 何故ッ.....


 何故。



 これ程までの惨状の中、















 生徒会室だけが無傷なのだ。
















 走る。探すように、求める様に。


 もうこの世にいないかもしれない彼を探して。



 そうして、辿り着いた。


 校庭で、彼は、愛呪と対峙していた。


 満身創痍なんて、そんなレベルじゃなかった。


 血に塗れ、今にも死んでしまいそうな会長が、そこにはいた。



「雨音ッ..... どうして来たッ...... 早く――」

「――貴方は!!...... どうしてか... 生徒会室が.... 嫌いだった...」



 語。



「雨音ェ!!」

「何で!!! 生徒会室が無傷なんだ!!!!」



 何がしたいの。



「ッ........ 雨音ッ... 頼むから逃げてくれッ....」

「可美.........」



 早く逃げろッ....



 雨音は俺の前に立ち塞がった。


 愛呪に向かって、仁王立ち。



「ねぇ... 可美。ペンは剣よりも強しって言うじゃない?...」

「早くッ.....」

「私は...」

「!?...」



 雨音は胸に手を当てた。


 まさかッ....



「...剣の方が... 強いと思う。」



 ロングソード。それが彼女の刃物だった。

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