ドルとヲタ

「しまったッ... 見失ったッ...」



 しかもこの地区は...


 引き裂き女。


 この地区では、イド種の死体が大量に発見される。そして、どの死体も真ん中から引き裂かれたような状態で発見されている。

 同時期に目撃情報が増えたのが引き裂き女。なんでも、引き裂き死体がある場所に必ずいる女がいるのだとか。



「それもヤバいが... 問題は...」



 そう、イドが大量発生しているという事は、この地域には奴が現れる。


 ブレイカー。


 破壊衝動の権化。奴の声が、姿が、未だに脳裏から離れない。



「コワスコワレコワスノネ」

「ッ!?」



 森の中。かろうじてアスファルトが敷かれた道の上で、あの声を聞いた。


 きっと、俺を見て言ってて、次の瞬間には死んでいる。


 そんな予感。


 そうして振り返り、事実確認。


 予感は外れた。良くも悪くも、否、悪すぎる。


 道の先には棒立ちのアイリスがいた。


 ブレイカーはアイリスを見ていたのだ。



「アイリスッ!! 逃げろ!!!」

「...」



 次の瞬間、ブレイカーは、アイリスに向かって攻撃を仕掛けた。


 が、半田の声が届いたのか、アイリスは見事に回避してみせた。


 不自然な程に、自然に避けた。



「避けた......」



 勿論、避けられたという事実は大変喜ばしいのだ。


 だが、天笠隊長がかわせなかった一撃を、あれ程までに簡単に避けられては、何かが浮かばれない。


 そして、本能が何かを恐れている。



「ヌケガラ。コワスノ、イイヨイイヨイイヨネェ」

「抜け殻...」



 アイリスを見て、抜け殻と言い放ったブレイカーが正しく思えてしまった。


 だが、アイリスは、ここでみすみす死ぬ様な人材じゃない。


 つまり、俺がやるべきことは...



「おい!! こっちだ!!!」

「エンァ? コワスノ?」

「あぁ、お前をな。」



 勝算? んなもんねぇよ。



 アイリスが逃げられりゃそれで――


――らりあっと。



 かろうじてガードを決めた。


 腕はきっと折れた。



「アア゙ア゙アアア!!!」



 死ぬ死ぬマジでッ... これじゃ逃げる時間も稼げねぇッ...



「コワレタネ!!! コワレタ!!! コワレタ!!!」

「壊れてねぇよッ.....」



――そのままやられてやるのか? あの女の為に。



 五年ぶりに聞く声だった。


 頭の中の、あの声だ。



「テメェ... 今更何しに来たッ.......」



――私も暇じゃなくてね。ようやく出れた。



「コワレテナイナイ、ナイノノノ?」

「やべぇ...」



――分離する。



「何言ってやがるッ...」



――前は失敗した... 今度こそ....



「コワス!!!」



――私が貴方の....



 エンジン全開のブレイカーが、目で追えない程の速度で飛んできた。


 いや、本当に...



「運がねぇわ......」



――刃になる。



 頭の中? 現実?


 分からない。


 けど、聞こえた。


 彼女の声が。


 次の瞬間、異常速度のブレイカーが止まった。


 止められたんだ。


 俺に? バカ言うな。



 だがもっと、バカを言う。



「アイリス・クリスタ!! 半田の刃!! いざ参る!!!」



 この世ってのは、最高にぶっ飛んでて、イカれてる。

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