花咲姐さん

「なんで死んでないのッ...」

「...」



 ソレは徐々に人の形へと変化していった。


 変化後のソレには、見覚えがあった。


 待てや... 待ってくれや... なんで生きとんのや...


 姐さんッ......



「ポチ... 久しいな。何年振りや」

「姐さんッ... 何しとんねんッ....」

「エヴォルオン・ハートを殺す為に... アタシは――」



 次の瞬間、愛呪の首が宙を舞った。


 くびだけかのじょはにっこりわらった。

  


「花咲華恋ッ... 貴様はッ... 生きていてはいけない存在だッ...」

「運命とは数奇なものだな。そして、目も当てられない程に残酷だ。そうだろう?... 枯木灰...」

「ッ!?」



 首から上が分離している状態で話せる愛呪は、確認されてる中で一種しかいない。


 そして瞬時に、首は胴体に戻った。



「LEVEL5ッ...」

「愛呪 - カオス、LEVEL5... 考えること、平凡...」

「嘘であって欲しかったわッ... 思考が読めるなんて噂ッ...」



 気付けば姐さんは、虚言女児の背後をとっていた。


 何が出来るんやろか。


 何が出来たんやろか。


 俺程度の人間に。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ね、姐さん... なんでアンタはそんなに喧嘩強いんや...」

「真剣な顔して何聞くんかと思たら、そんなことかいな」



 姐さんからすれば、俺の悩みは理解し難い。


 そんな事は、最初から分かってて聞いとる...



「ふっ... なんでそんな喧嘩強いんやって... 女にそんなこと聞くなや...」

「はっ... す、すいません...」



 気遣い無。



「ふふっ... ほんまおもろいな。だからお前のこと舎弟にしたんやで、ポチ」



 姐さんの笑った顔を見たのは、


 これが最後だった。


 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 気付けば姐さんは、目の前に立っていた。



「あんな女より、お前を残す方が厄介や」



――姐さんがそう望むんやったらッ....



「本望ッ...」



 目を瞑り、刺される。


 膝を着き、手を下ろす、痛みを味わう様に、感覚という感覚から意識を遠ざけた。


 違う、何かがおかしい。


 額から流れ落ちる汗。


 恐る恐る、目を開ける。



「何諦めとんねんッ... 虚言ヤクザッ...」

「なッ... 何しとんやお前!!!!」



 突き出された姐御の手刀は、虚言女児を貫いていた。



「誰に感謝されるわけでもないのにッ...」

「なんでや...」



 なんで俺の前にッ...



「どいつもこいつも救いやがってッ...」

「なんでやねん...」



 俺の事ッ... 嫌いなはずやろッ...



「よっぽど... 報われたくねぇ... ドMなんだな...」

「喋んな!!!! 死んでまうぞ!!!!」



 なんでやッ...



「女児に救われて... 報われて...。お前本当に...」



 なんでそんな嬉しそうな顔すんねんッ...



「...哀れだな」



 満面の笑みを浮かべながら、彼女はそう言った。


 俺はその笑顔を、知っている。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あんた達!! 寄って集って何してんの!!」



 男達は本職の取立人。取るのが仕事。渋る奴には容赦しない。



「ガキか。何の用や」

「寄って集って... 何しとんのかって聞いとんのじゃぁ!!!」



 枯木灰、十八。


 彼女が今まで突き出してきた正義の拳は、いくつもの悪を成敗してきた。

 しかし、正義は正義であるだけで、無敵ではない。


 正義は勝つ... 幻想だ。



「嬢ちゃん、粋がんのもええんやけどなァ、相手選べや? なァ?」

「いたッ...」



 そして、正義の拳の何倍もの大きさの拳が、彼女に振り下ろされた。


 が、次の瞬間、飛んだのは取立人の方だった。



「花咲の名、傷付けんなやボンクラァ!!!」



 中学生。


 バット持った中学生が、取立人達を一瞬で蹴散らしたんだ。


 取立人達のリーダーは、かろうじて意識が残っていた。



「テメェ... 顔ッ... 覚えた... ぞッ...」

「顔だァ? 名前覚えていかんかい!!! 俺の名は!!!... 花咲!!! 桜じゃ!!!!...」

「テメェがッ...................」



 花咲く桜に枯木の灰、


 出会い出会う。

 


「アンタ、やってる事めちゃくちゃ.....」

「なんや? 悪いか?」

「悪い。けど....」



 彼女は、満面の笑みを浮かべながら言った。



「アタシは好きだ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 次の瞬間、華恋は女児から手を抜き、狙いを定めるように、じっと見つめて、振り下ろした。


 彼は強い動悸を感じ取った。



「アカン。ソレハ」

「咲いたか...」



 花咲華恋をとめたんは誰や。

 姐御の邪魔すんのは...



「筋ハ... 通ス...」

「醜く... 咲いたな...」



 俺やないか...

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