第2話 少し省みれば

「ミツキくんって女の子みたいね」


 物心つく頃から、周りの人にそう言われることが多かった。祖父母は「男の子なのに」とずいぶん気にしていたようだったけど、僕は結構気分がよかった。


 だって、まぁ、僕が可愛いのは事実だし。


 姉のお古の服もよく似合ってたし、集合写真ではいつも僕が目立ってた。ちょっと自己愛強すぎかもしれないけれど。

 でも、可愛い僕はいくら眺めても飽きないし。


 中学校でも結構モテた。

 女の子にはもちろんだけど、男の中にも惚れてたヤツがいたと思う。でも、


「スカートを履いて欲しい」


 あまり話したことのないクラスメートに、初めてそう頼まれたときには、さすがの僕もびっくりした。

 その頃、僕は今よりもっと身体が小さくて、声変わりもしてなくて、無駄毛もなくて、服さえ変えればホントに女子と見分けがつかない。

 自他ともに認める美少年だった。


 今思えば、彼らはそんな可愛い僕を捌け口にしたんだと思う。悪気はなくても、自分の欲を満たすために。

 階段下から覗かれたり、体操服に着替えたり……。それを写真に撮られたりもした。

 今考えても、吐き気がするし気持ち悪いけど、僕が可愛いのは事実だし。ほんのちょっぴり気分はよかった。


 そんな可愛い僕の女装写真集は、ひっそりと人気があって、小遣い稼ぎにちょうどよかった。だけど、高校に入るとそうも行かなくなる。


「やっぱりホンモノの方がいいよ」


 彼らの言う『ホンモノ』とはホンモノの女性が登場するエロ本やAV……。僕の写真集より『ホンモノ』を好む層は、中学生のときからいたんだけれど、僕の写真集を買う人の方が多かった。


『ホンモノが見れるなら、オカマ野郎の変態プレイなんて誰が見るかよ』


 どうにか『ホンモノ』を得ることができるようになった彼らは、自分勝手にそう言って、僕のことをわらった。涙が出なかったわけではないけど、大して腹は立たなかった。


 だって、僕に人気があった理由は『ホンモノ』の入手の困難さだけではないと思うから。


 男の子は単純だけど、複雑だ。

 可愛い女の子が好きなくせに、恥ずかしがってモジモジするし、優しくせずに意地悪する。エッチなこと好きなくせに、格好をつけて、無関心を装う。

 そういうスケベ心とプライドの間で揺れる彼らにとって、僕の可愛さが必要だったのかなって思っている。

 だって、僕は男だから。彼らにとって、『男の裸はエッチじゃない』。娯楽のていで見れるスケベだったのだ。


 ……まぁ、他にも、男女のカップルも増え始めていたりで、高校では男の子たちからの熱狂はほんのちょっぴり下火になった。


 一方、女友達はちょびっと増えた。僕の可愛いメイク術を知りたいって子が何人かいて、『弟子入り』してきた。「女装の化粧は女の子のとは違う」って言ったんだけど……。


 とにかく、それなりに楽しい高校生活だった。……ただ、声変わりしたことだけが嫌だった。

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