第8話 街の異変

「マスター!?」


 カウンターの向こうを見ると倒れている。

 急いで駆け寄り揺するが起きない。


 手を見ると小さい宝石の付いた指輪が付けられていた。即座に鑑定の魔法を使う。


 鑑定結果は、闇魔法の生命力を吸い取る魔法が掛けられていた。

 急いで指輪を外し、生命力を回復する光魔法を施す。


「ん? 俺は……」


「マスター! よかった! この指輪どうしたんですか?」


「あぁ。この前来た男がくれたんだ」


「この指輪のせいで倒れたんです! その男の特徴は!?」


「あー。ガリガリで笑みが嘘くさい。えーと。髪がボサボサ」


 宝石を売ってた男だ。

 あいつが黒幕なの?


「この指輪貰いますね! 休んでてください!」


 店を出ると宝石を買った所に急行する。

 走ってる間にも悲鳴が聞こえ、人が倒れる。


ザザッ


『ソフィア! 原因は宝石よ! 闇魔法が掛けられていたわ! すぐに外して光魔法で回復させないと危ないわ!』


『了解! すぐに他の者に伝えます!』


『私もできる限り動くわ! 光魔法を使える人を集めるのよ!』


『はい! すぐに!』


ブツッ


 赤縁のローブを羽織る。

 身分を隠す様のローブだ。


 倒れた人のところに駆けつける。


「大丈夫ですか!?」


「突然倒れたんです!」


 大きい宝石のネックレスをしていた。

 生命力が大く吸い取られているようだ。

 急いでネックレスを外す。


「光よ。かの者に生命の力を。ヒール」


 倒れた女性を光が包み込む。

 段々と顔色が良くなってきたようだ。


「ん? わたし……」


「サラ! 大丈夫か!?」


「うん。なんで倒れて……」


「私、魔法師団のものです。今上層部から入った情報ですと、宝石に闇魔法が仕込まれていたとのことです」


「そうなんですか!? じゃあ、あのおっさん!?」


「私もその男を見ましたが、おそらくあの人は関わっているんでしょうけど、黒幕は別にいるでしょう」


 そう。あの男に目を向けさせるためにわざと公の場で宝石を売ったに違いない。


「では、お気をつけて帰ってください!」


「「ありがとうございました!」」


 念の為、宝石を売っていた場所に行くがもぬけの殻だ。


 あの男は怪しかったから魔力波を覚えてる。

 即座に索敵魔法で魔力波を探す。


 …………いない!?

 隠れるのが上手いようねぇ。


 だったら、私を襲ってきたあの男は……いた。


「転移」


 先程の光魔法をを使用した際には詠唱をしていた。赤縁の見習い級では詠唱を使用しないと普通は魔法の行使ができない。


 普段エマが行っている詠唱破棄、無詠唱は高等技術なのだ。


 転移でやってきたのは居酒屋の前であった。

 中を見ると絡んできた男が上機嫌で酒を煽っていた。


「いやー! いい仕事だったなぁ! 可愛いボインちゃんの腕を掴んで投げられる仕事でこの報酬。破格だわ!」


「ハッハッハッ! 違ぇねぇ!」


「俺たちはいつものように女の子に声掛けるだけでこんなに報酬くれるんだもんな!」


「だよなぁ! 一人十万ゴールドなんてひと月の給料分だよな!?」


 そいつらの席に歩いて向かっていると、不気味な雰囲気を察したのだろう。


「おい! なんだお前! 何故ここが!?」


「私が軍の人間なのは言ったわよね? あなた達どこから来たの?」


「俺達はこの街の────」


ダンッ


 手をテーブルに叩きつけ、睨み付ける。


「この街に居る人は、私が軍の人間だって言うのは服装でわかるのよ。これが制服なんだから」


「えっ!? いや、えーっと……」


「今度は投げるじゃ済まないわよ?」


 凄んで顔を近付ける。


「いやいや! 勘弁してくれよ! 頼まれただけだって!」


「何を?」


「俺達は確かにこの街の人間じゃねぇ。けど、出稼ぎにいい仕事があるって紹介されて……」


「誰に?」


「変な太った男……宝石を身体中に付けてた。そいつに指示された所で待ってて。そしたら、念話であんた達に声掛けろって言われて」


 まさか、五混衆が動いてるの?

 その特徴は宝石商のタルマ。


「さっさと自分の街に帰りなさい? あなたの魔力波覚えてるから何処にでも殺しに行けるわよ?」


 ニコッと笑い去っていく。

 男は顔を青くして縮み上がったのだった。


 宝石商のタルマですって!?

 宝石が関わってるからまさかと思ったけど、何故この国に攻撃を!?


 時折街ゆく人を助けながら詰所に向かう。

 すると、魔法師が集められていた。

 纏めているのは白いローブを纏ったソフィアだ。


「遅くなりました! 私にもなにか出来ますでしょうか!?」


 ソフィアに向かって敬礼する。


「街の様子は見たわね?」


「はい! 少しですが、情報があります!」


「あっちで話しましょう」


 詰所の応接室を使う。


「エマさん、それで?」


「えぇ。黒幕がわかったわ。メンゲン共和国の五混衆、宝石商のタルマよ」


「あのデブですか?」


「そのようね。私に絡んできた男を問い詰めたら、全身に宝石をつけた男に仕事を紹介されたらしいわ」


「それは、あいつ以外にいないですね! なんの目的で……」


「ねぇ、最近この国で宝石発掘されたって話聞いてない?」


「!?……そういえば、西側にある山から鉱石じゃなくて宝石が出たとか……」


「それね。鉱山を狙ってきてるのよ」


「ってことは……」


「戦争を仕掛けてきてる。けど、一人ではどうにもできないと思うのよね。独断でやってるのか、五混衆がみんな動いてるのか……」


「単独だとしたらやっぱり理解できない馬鹿だったってことね」


 前にステルク独立国家を認めさせるために会ったことがあるけど、私利私欲の為に動くような屑だったのよね。

 あの時も宝石渡すから私のものになれとか訳わかんないこと言ってたし。思わず塵にしちゃう所だったわよね。


「どうやって探します?」


「んー。さっき宝石を売っていた男も索敵したんだけど、見つけれなかったのよ」


「エマさんで見付けられないなんて……」


「うーん。上手く隠れているようなのよねぇ。でも、一先ず住民の安全確保! あの宝石はずっと付けていると命が危ないわ!」


「はい!」


 すぐに応接間を出るとソフィアが指示を出す。


「今、この街の危機は、魔法師に掛かっているわ! この街に散らばって生命力を吸われた人に片っ端から光魔法を掛けるのよ! いい!?」


「「「はい!」」」


「発見次第宝石は破壊すること!」


「「「はい!」」」


 魔法師が街に散らばっていく。

 

 まだ見習いの魔法師が多いわ。

 私はサポートに回りましょう。


「ライフサーチ」


 生命力の索敵をする。

 これは、エマが編み出した魔法だ。

 生命力が少なっている人を探す為に開発した人命救助用の魔法だ。


 各魔法師の近くで危ない人を見つけると転移で飛ぶ。


「大丈夫ですか!?」


 倒れた人に声を掛ける。

 そして、それに気付いた魔法師が駆けつけてくる。


「この人に魔法をお願い」


「はい!」


 同じようなことを繰り返し、生命力が吸われた人を助けていく。


 終わった頃には朝になっていた。

 詰所に戻ると疲労困憊の魔法師達がいた。


「なんとか街の人達を救うことが出来たわ! 良くやったわね! 今日はみんな非番よ! ゆっくり休みなさい!」


「「「はい!」」」


 解散して去っていく。

 疲労もあるだろうが達成感の方が勝っているのだろう。魔法師達の顔は明るく誇らしい顔をしていた。


 この街は魔法師に救われた。

 その事はこの街の人達の脳裏に焼き付いたことだろう。


「ねぇ、ソフィア、今日って私も非番?」


「エマさん、招集の人員に入ってませんよ?」


「えっ? ってことは?」


「受付頑張ってくださいね?」


 ニコッと笑ってそう言い放つソフィア。


「なんで私だけぇぇぇぇ!?」


 朝の辺境街に悲鳴が木霊するのであった。

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