第7話 怪しい商売人
「おはよー!」
「おはよ。ねぇねぇ知ってる?」
いきなり知ってる?って言われて、知ってるって言ったら嘘じゃない?
「ん? 何が何が??」
「あのね、辺境街の南の入口付近で宝石を安く売ってるらしいよ!」
「えぇ!? ホントに?」
「私もまだ行ってないのよ! 仕事終わったら行ってみようと思うのよ!」
「ふぅーん。私も行ってみようかなぁ。宝石が安いとか気になるし……」
「だよね!? 安い宝石とかラッキーじゃない!?」
そういう意味じゃないんだけどなぁ。
安い宝石か……なんかきな臭い気がするんだよなぁ。
そういえば、この前の兵士団からの伝令にあったな。
メンゲン共和国から怪しいヤツらが入国したとか何とか。でも、極端に荷物が少ないとも書いてた。こっちで調達したってこと?
んー。わかんない。見て見ないとなんとも言えないわね。
「そうだよねぇ! 可愛いのが安かったら買おうかなぁ!」
「そうだよ! 一緒に買おう?」
「そうね! 仕事終わったら行きましょー!」
「やった!」
ニーナと一緒に買い物など初めてだ。
というか、ソフィア以外と出かけるのが何年ぶりか。って感じ。
受付に座ると後ろからルークがやって来た。
「(ボソッ)メンゲン共和国から怪しい人物が入ったと以前連絡が来ておりました。お気をつけてください」
「(ボソッ)知ってるわ。私を誰だと思ってるの?」
「(ボソッ)流石でございます。余計なことをしました」
「エマ、寝るなよ?」
「ひどーい。寝ませんよぉ。昨日はよく寝ましたもん!」
アイコンタクトをしてコクッと頷くと去っていくルーク。
気をつけろって言うんでしょ?
分かってるわよ。
今日も長い一日が始まった。
待ちゆく人を観察していると。
宝石を買ってきたであろう夫人がオホホホホといいながら別の奥さんに自慢していたり。
プレゼントだと言って男の人が女の人に宝石を渡したりしていたり。
宝石付きの指輪をしてうっとりとその宝石を見ていたり。
みんな宝石を買ってるみたいね。
どんな宝石なのかしら?
「エマちゃん? 遠くを見てどうしたの?」
目の前にシオンがいた。
不覚。気づかなかったわ。
「んー? ちょっと、考え事!」
「考え事してるエマちゃんも可愛いね? ねぇ、今度の休みの日にご飯行かない?」
「今度の休み? んーーーーー」
どうしよう。暇だけど、宝石関係でなんかあると休み潰れるからなぁ。
「あっ! そういえば、予定あったんだ! ごめーん!」
「ううん! また今度ね!」
こんなに断ってるのに懲りない子ねぇ。
そんなに私のことが好きなのかしら?
それとも……考えるのはやめましょう。
考えてもしょうがないわ。
眺めているとあっという間に一日が終わった。
「お疲れ様でしたぁー!」
「お疲れ様でした!」
私が席を立った後にすぐにニーナも後に続いて部屋を出る。
「ねぇ、南の入口ってあっち行けばいいのよね?」
ここの詰所は街の少し東側に位置している。その為、南の入口に行こうとしたら少し西に移動することになるのだ。
「うん! そうね! 行きましょ!」
2人で歩いていると注目を集める。
エマは身長は低いが出ている部分が大きい。
ニーナは身長が高い上、スタイル抜群だ。
それは注目を集めるだろう。
そうなると今の時間帯に多いのが……。
「ねぇねぇ、お姉さん達? どこに行くのぉ?」
男三人組に囲まれる。
「今から宝石を見に行くのよ! 邪魔しないでちょうだい!」
ニーナが断るが、肩を掴まれる。
「へぇ。いいじゃん! 俺が宝石プレゼントするよ!」
「いりません! 自分で買います!」
その腕を振り払い歩いていく。
それに付いて行こうとすると腕を掴まれた。
「おい! 無視してんなよ!?」
腕を引っ張られたことにより胸が強調される。
「おぉぉ。いい体ぁ。君さ、飲みに行こうよ。ねっ?」
視線が気持ち悪い。
このゲスヤロー気持ち悪いんだよ!
腕を掴み、相手の引っ張る力を利用して合気の要領で投げる。
クルッと男が回り背中から落ちる。
ズダァン
「いってぇ!」
「てめぇ何しやがる!?」
「私達は軍の者よ。軍を敵にする覚悟はあるのかしら?」
男達三人を睨み付けると。
「くそっ! 軍の女かよ! 筋肉女共が!」
捨て台詞を吐いて去っていく。
「はぁ。こんなんだから軍の女は行き遅れるのよねぇ」
「エマー! カッコイイ! やる時はやるのねぇ!?」
ニーナを言葉を皮切りに周りで拍手が起きる。
「いいぞ! ねぇちゃん! よく懲らしめた!」
「流石軍の人だね! 軍の人間はそうでなくっちゃ!」
賞賛の声が上がった。
「あはぁー。どうもどうもすみませんー。お騒がせしましたぁー!」
頭に手を当てペコペコと周りにお辞儀をする。
「邪魔者はいなくなったし、宝石買いに行きましょ!」
「そうね! 行きましょー!」
腕を突き上げてノリノリで宝石を売っているという露店を目指して歩く。
南の入り口付近で地べたに座り布の上に何かキラキラした物を広げている者がいる。
「あの人かなぁ?」
「きっとそうだよ! 行こっ!」
疑問形で聞いたが、ニーナは断定して走って行ってしまう。
歩いて付いて行くと。
「おぉーー! こりゃまた別嬪さんだねぇ! 見てって頂戴よ!」
胡散臭い笑顔で対応してくる。
この男、怪しい。
売っているのは宝石の付いた指輪やネックレスだ。
それが一個二万五千ゴールドねぇ。普通の宝石だと十万ゴールドはするはずよねぇ。確かに安いわ。
指輪を一つ取りじっくり見る。
この輝きは本物っぽいわねぇ。
さらに密かに鑑定の魔法をかける。
うーん。本物だ。
私が疑いすぎだったかしら。
「どう?」
ニーナが聞いてくる。
「うん! かわいいからこれもらおうかな!」
「えぇ!? 私も何か……私は、このネックレスにしよう!」
お金を渡しながらじっくりと観察する。
「ねぇ、おじさん、こんなに安く売ってだいじょーぶなのぉ?」
「えっ?……はっはっはっ! おじさんは赤字覚悟で皆に配っているんだぁ! いやー。ホントに赤字で困っちゃうなぁ」
頭をかきながら参った参ったといって笑っている。
目が泳いでる。
変に噴き出た汗。
絶対何かあるのに物は本物……今はどうにもできないわね。
「そうなんだ! ありがとね!」
おじさんに手を振って別れる。
帰路についていると。
「エマ! 今日は助けてくれてありがとう! あなたがこんなに頼りになるなんて思わなかったわ! また一緒にお出かけしましょう!」
「あっ、うん! またね!」
ニーナはルンルンで去って行った。
うーん。
かなり怪しかったけどなぁ。
何か隠してると思うんだけど……。
もう少し調査してみようかな。
また明日行ってみよう。
考え事をしながら歩いているといつものお店に来ていた。
「マスター、パフェとワイン……あっ、ワインはやっぱりいらない。パフェとサンドイッチ頂戴」
「あいよ」
はぁ。今日はなんだか疲れたなぁ。
変なやつに絡まれちゃうし。
気持ち悪い視線だったなぁ。
コンプレックスなのよねぇ。大きすぎて。
出されたパフェをパクリと一口食べる。
「んー! おいひぃ!」
糖分を摂取したことで頭が回り始めた。
自分の服装を確認する。
あれっ?
そもそもあの男達なんで私達軍の服着てたのにわからなかったの?
そうよ。たしかに受付嬢の軍服は軍服っぽくない。
けど、この街の人達で知らない人はいないはず。
でも何の為に?
……もしかして時間稼ぎ?
ザザッ
『エマさん! 緊急事態!』
『どうしたの!?』
『街の人達が次々に倒れてるっていう報告が!』
『えっ!?』
ドダァン
マスターがいない。
カウンターの向こうを見るとマスターが倒れていた。
「マスター!?」
この街で何かが起き始めていた。
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