第5話 騒動の後

 現場に到着すると敵味方が入り乱れて戦っている最中であるが、見たところこちらの劣勢のようだ。


 一人一際動きのいい者がいる。

 敵は五人。


『アイスランス多め』


 魔力を込めて30余りの氷の槍を成形する。


『サーチ、ロック』


 魔力波を探索してその魔力波に目標を固定する。これにより誘導が可能だ。


『行け』


シュバババババッッ


 一斉にアイスランスが発射されていく。

 一人につき六個の割合である。

 次々と敵が倒れていく中、魔法の本質を見極め防御している者がいた。


 先程の動きがいい者であった。

 魔力を察知し、避けても無駄だと思い最小限の防御魔法で対処したようだ。


 やるじゃない。

 偶には骨がある奴がいないとね。


「なんだぁ? てめぇは? いきなり来て、認識阻害かけてバレないようにしてんのか? ステルクの飼い犬か?」


『スワンプ』


 足元を泥沼にする。

 しかし、サッと避けられる。


「魔力の兆候が分かれば避けることなんて出来るんだよ! ファイアランス!」


 こんな森の中で炎の魔法打つとかどうかしてるわ!見境ないじゃない!


『ウォーターウォール』


 水の壁を創り炎の槍をジューッと蒸発させて相殺させる。


 こいつに魔法使わせると面倒ね。

 近接で勝負よ!


 グルカナイフを懐から出し、右手に逆手で持ち、駆ける。


「おっ! やるきか!?」


 相手は細長いサーベルだ。

 射程はあちらが長いが、関係ない。

 速度勝負!


『身体強化』


 一瞬で背後を取り首にナイフを叩きつける。


ギィンッ


 サーベルが間に割り込んだ。


「はえぇな!」


 敵がこちらに向き直る。

 巧みにサーベルを右左にクルクル回しながら時よりこちらを切りつけてくる。


 カウンターのタイミングが掴めないわ。

 うまいわね。

 けど、甘いのよ。


『スワンプ』


 泥沼が出現しハマっていく。


「お前! 狡いぞ! 堂々と勝負しろ!」


『さらばだ。アイスコフィン。ブレイク』


 氷の塵になり消えていく。


『無事か?』


 子供達を守っていた兵達に聞く。


「はい! どなたか存じませんが、ご助力感謝します!」


『いいんだ。私も軍の者』


 そういうとこれ以上聞かれないように転移する。


 詰所の裏に転移する。

 真っ黒なローブを脱ぎ、パンッパンッと埃を落とし服を整える。


「あっ。急にいなくなっちゃったからなぁ」


 受付の部屋に行くと案の定注目されてしまった。


「すみませーん! お手洗い長くなっちゃいました。テヘッ///」


 上司のルークが立ち上がると腕を掴まれる。


「ちょっと来てもらえるか?」


「あーぁ。エマがルークさん怒らせちゃったぁ」


 後ろからニーナのそんな言葉が聞こえる。


 あちゃあ。やっぱり怒っちゃったか。

 仕方ない。素直に怒られよう。

 何処に言ってたかだけは黙っていよう。


 応接間に通される。

 促されるままルークの正面へ。


「茶でも飲むか?」


「いえ。その……すみませんでした」


「何がだ?」


「職場を放棄していた事です」


「ふむ。何処に居たんだ?」


「それは────」


「お手洗いはなしだぞ? ニーナが心配してこの建物全部のトイレは探したそうだ」


 くっ。

 まさか探していたとは。

 こういう時は心配するんだから……バカニーナめ。


「…………」


「言えないか?」


「守秘義務に違反します」


「では、先程この建物の裏で来ていたローブは何だ?」


「!?」


 うそっ!

 見られてたの!?


「守秘義────」


「真っ黒だった……」


 やばっ! いつもの癖でそっちのローブで行っちゃったか!


「全魔法師団には階級があり、ローブの縁にはその階級ごとの色が縁取られるのは知っているよな?」


「はい」


「見習いから順に赤、青、黄、茶、紫、白と上がっていく。そして最後は黒。これは……元帥しか着る事が許されていない。先ほど言ったローブの真っ黒というのは、元帥しかありえない。しらばっくれるならそれでもいいが、ちゃんと納得いく答えを聞くまではここから出さないぞ?」


 仕方ない。

 呼びますか。


ザザッ


『ソフィア、緊急よ。ルークに元帥である事がバレた』


『はい!? なぜです!?』


『真っ黒ローブを着ているのを見られたみたい……ごめん』


『はぁ。バレるの早かったですね。まぁ想定の範囲内です。今行きます』


ブツッ


 ブンッと魔法陣から現れたのは真っ白いローブを着ているソフィアであった。

 真っ黒、真っ白は実は特注の元帥、大将専用のローブで他の者は作れないことになっているのだ。


「結界作動」


 部屋に盗聴防止の結界を張る。


「ルーク大尉ご苦労」


 ルークが椅子から降りて跪く。


「これはソフィア大将。このような所にご足労頂きありがとうございます。大将がお出ましという事はやはり、こちらの方は元帥とお見受けしました」


 その言葉を聞いてソフィアが疲れたようにこちらを向く。


「エマさんもう話すしかないですよ」

 

「はぁ。ごめん。ソフィア」


 アイテムボックスから真っ黒いローブを出し被る。


「見られた私が悪いからあまり強く言えないけど、ルーク大尉、他言は無用でお願いね?」


「はっ! あの……今朝の私の言動は……」


「あぁ。あんなのしょうがないわよ。不問よ」


「ありがとうございます!」


「でも、これからも受付嬢は続けたいのよ」


「何故あのような雑用を?」


 本当に疑問に思っているようで顔を上げて首を傾げている。


「うん。それはね、街の人の顔や軍の部下の顔が今どんな顔をしているか把握したいからよ」


「かお……ですか?」


「そう。私はこの国の皆に笑顔でいて貰いたい。それが私の願い。国王はどう思っているかわからないけどね……あの狸ジジィムカつくのよ!」


 若干いつものエマが出たことでルークは緊張が解けたようだ。

 ルークが決心をした目でこちらを見つめる。


「私もこの命は国民の為にあると考えております! その願い、お供致します!」


「ふふっ。ありがとう。じゃあ、これからもいつも通りにね?」


「そ、それは……努力致します」


 ローブをしまいソフィアに戻るように促す。


「じゃあ、戻ります。結界解除」


「えぇ。ありがとう助かったわ」


 転移魔法で去っていくソフィアを見送り、ルークを見る。


「行きましょ? 私は怒られて反省した。ということにしましょう」


「はっ!」


「返事が違いまーす」


「あっ。わかった。そうしよう」


 応接室を出ると下を俯いて反省している雰囲気を作る。


 受付部屋を開けると一斉にこちらを向くが下を向いている為、どういう顔をしているかわからない。

 自分の席に着き受付を行う準備をする。


「エマー。何処言ってたのよぉ。探したんだからねぇ? 反省したら二度としないのよ?」


 ここぞとばかりにニーナが絡んできたわねぇ。

 どう言い訳しようかしら。

 んー。


「皆にも聞いておいてもらった方がいいだろう。エマが隠れていなくなったのには理由があったんだ。先ほどはそれについて聞いていた」


 えっ!?

 いきなりバラす!?


「実は、近くの親戚が体調を崩しているらしい。それで時々様子を見に行っていたんだそうだ。これからも時々抜ける時があるだろう。協力してやってくれ」


 おおぉぉ。

 いい言い訳ね。

 やるじゃないルーク。


 後ろを向いてサムズアップする。

 ルークがちょっとドヤ顔をしている。

 

 そんな顔初めて見た。

 やだ。笑いそう。


「そうだったんだね。エマ。大変だったじゃない。言ってくれればいいのに」


「ごめんね。ありがとう」


「そんな。泣くことないよ?」


 笑いを堪えてたら涙が出て来たわよ。

 ったく。

 一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなってよかったわ。

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