第3話 噂
「ねー? 知ってる? 最近さ、困ってる人を助けて回ってる某軍人って人が噂になってるのよ?」
出勤するなり話しかけてきたのはニーナであった。
あれ?
手紙書いて置いてたのが変に噂になっちゃってるのかぁ。
大丈夫かなぁ?
面倒なことにならなきゃいいけど……。
「ふーん。某軍人? って何考えてるんだろうね? そーんなことしてもお金にならないのにねぇ」
人差し指を私の方に向け目を釣りあげている。
「そんな考えでやってるわけないじゃない! きっと崇高な考えをお待ちなのよ。人助けなんて素敵だわ……」
天に向かって両手を合わせて祈っている。
「どうか、この私めの所にも来てくれますように!」
「なんでニーナの所に来るのよ? 何にも困ってないじゃない!」
「素敵な殿方が見つからなくて困っているから現れて欲しいのよ! そして私と……」
自分の体を抱きしめてクネクネしている。
「ふーん。男の人なの?」
「それはそうじゃない? そういうヒーローは男と決まってるでしょう?」
「決まってないと思うけど……」
「いいえ! 決まってるんです!」
うわぁ。
この子こうなると頑固だから面倒なのよね。
「そっか。さぁ、お仕事お仕事ー」
受付カウンターに座って外を眺める。
今日もいい天気だなぁ。
こんなに晴れた日に昼寝したら気持ちいいだろうなぁ。
両肘をカウンターについて手に顎を乗せて前傾姿勢になって外を眺めている。
上まぶたが段々と重くなってくる。
視界の先に男の子が走ってきた。
「おねぇちゃん! ここにいるボーグンジンさんがヒーローなんだよねぇ? でも気をつけないといけないんだよねぇ?」
「んー? 誰かにそう聞いたのぉ?」
「村のおじいちゃんが言ってたんだよ?」
「そっかぁ! それで、君はどうしてここに?」
「うん。それがねぇ。お姉ちゃんが帰ってこないんだ」
「君のお姉さん?」
「ううん! 本当のお姉ちゃんじゃないんだけど! 村でよく遊んでくれたお姉ちゃんなんだ!」
村の女の人が帰ってこないってことは攫われた? どういう事かしら? 話を詳しく聞きたいけれど……。
「詳しくきかせ────」
「あっ! こんな所にいた! 何やってんの!」
現れたのは母親らしき人。
「あっ。お母さん。僕は、お姉ちゃ────」
「ダメじゃない! 行くわよ! すみません! お仕事の邪魔してしまって!」
「あ、あの……」
そそくさと子供を連れて去っていってしまった。今後を追わないと見失う。
「あっ! いたたたたたた」
お腹を抑えながら痛がる。
ニーナに向かって悲痛な顔をする。
「ニーナ……受付代わって。お腹……痛い。早退する」
「えっ!? ちょっと大丈夫!? 分かったわ! 帰って休みなさい!」
「ご、ごめん」
ささぁと詰所を後にする。
いつもは私に嫌味を言ってくるニーナだけど、案外情に厚くてこういう時は優しいんだよね。
利用するみたいで申し訳ないけど。
ごめん!
先程の親子が消えた方向へ走る。
ローブを深く被り認識阻害の魔法をかけてある。
あの母親の魔力波は覚えてる。
「サーチ」
目当ての魔力波を見つけた。
まだそんなに遠くない。
建物の屋根伝いに親子を追う。
「見つけた」
そこからは尾行する。
魔力の波というのは個人で違く、同じものは無いと言われている。その為、よく個人の特定に使われているのだ。
詰所があるところはここステルク独立国家の辺境擁壁地区にある通称辺境街である。南からの侵入を拒むように巨大な壁が建設されているのだ。
その内側にはチラホラの村ができているのだ。その内の1つなのだろう。
親子は東に向かって歩いていく。
買い出しに来たのだろう。
野菜や肉を持って歩いていく。
1つ森を過ぎたあたりに村があり、その中に入っていった。
隠蔽の魔法も施して村に潜入する。
家屋の後ろに隠れるようにして移動する。
「あっ! 村長! すみません! うちの子が軍の詰所で何か言ったみたいで……」
「そうか……しかし、子供はなにも分からんじゃろう?」
「そうなんですけど、ハルちゃんが居なくなったことを言ってしまった見たいで……」
「ほう。まぁ、子供が言ったことだ。そんなに相手にはされんだろう。大丈夫じゃ」
「すみませんでした!」
親子は村長に謝ると家に戻るようだ。
そのまま待機していると。
「チッ! あれがバレたら……」
そそくさとどこかに向かってかけて行く。
後を付いて行くと、孤児院にたどり着いた。
ステルク独立国家は北のヒロート公国から最近独立してできた国である。それには多少の戦争が伴い、兵士や民間人の犠牲が出た。
これにより、孤児も増えることになってしまい、この村のように村で運営する孤児院は珍しくはない。
孤児院の院長を呼び出すと怪訝な顔で捲し立てる。
「おい! 例の三人は何処か別の場所で隔離しておけ! あれがバレるかもしれない!」
「なっ!? しかし、隔離するとなると場所が……」
「じゃあ、今夜だ! 連絡とってくれ!」
「わ、わかりました」
慌てて何処かに行く。
今夜何かをやるなら、今夜に来た方が手っ取り早いわね。
◇◆◇
辺りは暗くなり住宅の明かりも消えた頃。
暗がりに蠢くものがある。
「早く歩け!」
「きゃ!」
「静かにしろ!」
静かに怒鳴っている人物は村長だろう。
その他にも大人がもう一人。院長だろうと思われる。
連れているのは少し大きい子供のようだ。
子供を連れてどこに行くつもりかしら?
後をついていく。
村をはずれた森の中でランプをクルクル回す。
すると、どこからとも無く五人の気配が現れた。
他にも人がいるか確認したいが、今魔力を放ってしまえばいる事がバレてしまう。
「いきなり連絡してきて何だ? ひと月毎に一人の約束だっただろ?」
「すみません! しかし、この事がバレそうになってしまって……」
「あぁ。最近噂のヤツが動きそうだから早く連絡したってか? お前達は本当に人でなしだな? 子供を助けたフリして俺達に売ってるんだからよぉ。アッハッハッ!」
「人でなしは勘弁してください。これも村のためです。知らない子供を預かっている余裕などない
んです。この方法が合理的だ」
「ま、俺達は助かるぜ? 皇帝さんは女が居ないとうるさくてなぁ。一人気に入っても直ぐに飽きるから、いくら女がいても足りねぇんだわ」
そういう事か。
腐れ外道共がぁぁ。
村長も院長も金の為にそんな事するなんて、私達はなんの為に独立国家にする為に戦ったと思ってるのよ!
そんな外道な地域から住み良い国にする為に独立したのに!
村に金がない?
援助は十分にしてるハズよ!
誰かが搾取してるんだわ!
取引相手は皇帝という言葉が出る所を見るとゼルフ帝国のヤツらね。昨日も始末したのにウジャウジャと!
「スワンプ!」
帝国の男達の足元を沼にする。
「うおっ!」
「なんだ!」
ズブズブ身体まで入った所で凍らせる。
「フリーズ!」
認識阻害は施したまま出ていく。
「貴様か! 出せ!」
『お前達は処罰する』
低い男の声が響く。
魔法の効果で声も変わっている。
「もうバレたのか!? 待ってくれ! この子達の為でもあるんだ! 私達も生きていけない!」
『国からの孤児院への補助は十分なはずだ』
「そんな! あんな額じゃ一人も養えない!」
村長はそう言うが院長は黙っている。
『補助は孤児院の院長に渡されるはずだが、村長は一体いくら渡されているんだ?』
「ひと月一万ゴールドしかもらってない!」
『国からは人数に比例して一万ゴールド増えるはずだが』
「そ、そんなハズは!」
院長を見ると俯いている。
「クックックッ。爺さんはバカで助かったのになぁ」
笑いながらこちらを見ている。
「ワシは苦渋の決断をして子供に手を掛けていたのに……」
「なぁにが苦渋の決断だ。お前も私腹を肥やしてるんだろ? やってらんねぇんだよ! 子供のお守りばっかりさせられてよぉ! だから、歓楽街で女を買ってたんだよ!」
「そんな……院長が金を……」
「ったくよぉ! お前誰だ! 邪魔しやがって! 正体を現せ!」
『そうか。みんな同罪だな』
「俺たちを無視するな! ゴラァ!」
喚いていたゼルフ帝国のやつらに手を翳す。
『アイスコフィン』
兵達を氷漬けにする。
『クラッシュ』
バリィィィンッ
全てが粉々になる。
怯えたのは院長である。
「お、俺は悪くないぞ! この爺さんが悪いんだ! 安月給で俺をこき使いやがって!」
『アイスバインド』
「なっ! や、止めてくれ!」
院長は抵抗しているが村長は微動だにしない。
「私はいかなる罰も受けよう」
『村長は子供達を連れて戻れ。後日監視の意味も込めて人を手配する』
「わ、わかりました」
子供を連れて村に戻っていく。
「俺はどうなるんだ! 死にたくないんだ! 助けてくれ! なんでもす────」
院長が喚いている。
ドスッと首筋に手刀を放ち、倒れてきた所を受け止める。
『転移』
兵士団の詰所に下ろして行く。
『コイツは人身売買に手を染めた悪なり極刑を希望する 某軍人』
この日も某軍人は現れたのだった。
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