第2話 村の畑荒らし
「はぁぁぁ! 今日も終わりましたねぇ!」
受付の依頼書を持って上司の机まで届け───
ズダンッ
「いだっ!」
依頼書がパラパラパラパラと舞う。
「お前なぁ……」
上司がコメカミをピクピクさせている。
「すみませーん!……テヘッ///」
「テヘッじゃない! 早く拾え!」
「はぁーい!」
背筋を伸ばして片手を挙げて返事をする。
下に落ちた依頼書と兵士団から魔法師団への依頼書を片付けていく。
片付けながら全てに目を通していく。
南東のゼルフ帝国で小競り合い発生。援軍を派遣する様に……か。
真南のメンゲン共和国からこちら側にくる関所で怪しい集団が侵入。手荷物に怪しいものはないが異様に身軽。こちらで何か企んでいる可能性があるため監視して欲しい。
個人の依頼書は受け付ける時に見ているため覚えている。兵士団からの依頼書や上からの伝令は封筒に入っているため見えない。だが、ばらまかれれば書類が出ていても変ではない。
「ったく。何回ばらまけば気が済むんだよ。そこに置いておけ」
机に置いて自分の席へ戻る。
「まーたエマ転んだのぉ? ホンットに栄養が胸にしかいってないからじゃないの?」
一緒に受付嬢をしているニーナが隣で呆れた様に馬鹿にしてくる。
いつもの事だから気にしてはないのだ。
「もう! ニーナだって身体にしか栄養いってないじゃない!」
「あぁら! 私は仕事ちゃんとしてるもの」
「そうなのぉ? この前兵士団の新人さんが受付でニーナにご飯誘われたとか嬉しそうに言ってたわよぉ? それって、仕事、真面目にしてることになるのぉ?」
「う゛っそれは……」
「ねぇ、ニーナ? お互い様って言葉知ってる?」
「う、うん! もちろん知ってるわ! 仕事しましょう」
この女、男のことしか考えてないくせに私に文句言うなんてどうかしてるわよ。
あっ! 私も今日ご飯に誘われたんだったわ!
「そう言えば今日、私、兵士団の人にご飯に誘われたわぁ」
「えっ!? 誰?」
「んー。名前は知らないけど、目がクリっとしてて、ツーブロックで髪黄色だったかなぁ」
「それって、シオン君じゃない!?」
「あー。そうなの? 私は分かんないけどぉー」
「ぐぬぬぬ!」
クックックッ。
悔しがれ高身長のボンキュッボンめっ!
スタイルいいやつなんて爆散してしまえ!
「じゃ! お先に失礼しまーす!」
詰所を後にした。
今日の依頼書で気になったのは畑荒らしが出ているという件。
黒縁のローブを被り転移する。
ついた畑はよく実がなっていて、もうすぐ収穫時期なのがわかる。
隠蔽の魔法をかけて様子見をする事にした。
しばらく見ていると、畑の作物を狙って男達がやって来た。
「この村はこの前も作物取られたのに、なんでこんなに無防備なんだろうなぁ!」
「はっはっはっ! 馬鹿だよな!」
「けど、助かるよな! 実際潜伏する為の食材そんなにねぇじゃん?」
「おい! 誰かに聞かれてたらどうする!」
「こーんな暗い所で誰がいるっつうんだよ! 大丈夫だって!」
自分達で持ってきた袋にジャガイモ、キュウリ、トマト等様々な畑から勝手に収穫している。
この人達何処に潜伏しているのかしら?
まぁ。泳がせてみましょうか。
作物を取り終えるとそそくさと戻っていく。
後を付けて行くと見張りが立っている洞窟の中に入っていった。
見張りの胸にはアルファベットのAに似たマークが付いている。
あのマークはゼルフ帝国ね……
あそこの皇帝何考えてるのよ!
いつもいつもちょっかいかけてきて!
腹立つわね!
ギルティー!
「ブラックミスト」
見張りの男を顔を黒い霧が覆う。
「う────」
声を上げる前にナイフを胸に突き立てる。
倒れる前に受け止め静かに地面に転がす。
音をたてないように中に入っていく。
横穴を掘り、部屋の様にしている。
こんなに整備されるくらい長くいたの!?
一体何しにきていたのかしら……
寝ていた人が居たが胸にナイフを刺して絶命させる。
「こんだけありゃあしばらくは凌げるだろ」
奥の部屋だ。
「あの村のやつらば────」
男の胸に背後からナイフを突き立てる。
「なっ!?」
「てきし────」
喉を切り裂く。
気が動転していて残っている男もまともに動けないようだ。
正面から胸にナイフを突き立て絶命させる。
大きな音をさせたが誰もやってこない。
少人数で潜伏していたのだろう。
一応見て回ることにする。
順番に部屋を巡り漁っていく。
見つけた部屋には書類が置いてあった。
「これが指令書かしら? どれどれぇ?」
そこには。
身長、体重、バスト、ウエスト、ヒップの目標値と書かれている。
綺麗系の目がキリッとしている方がいい等とかかれている。
グシャグシャっと握り潰してポイッと捨てる。
「あんの皇帝ふざけてる! こんな女漁りの為にこの国に不法侵入するなんてしんじらんない!」
収穫されたものの部屋に行きアイテムボックスに収納する。
「取られたものは返しておかないとね!」
洞窟を出ると振り返る。
「アースクエイク」
ドドドドドドォォォ
洞窟が土で埋まっていく。
「誰かにまた悪用されたら困るものね。今日は撤去班呼ばなくていいわね! 私ってば天才!」
ルンルンで村に戻る。
村に戻ると少し辺りが明るくなってきていた。
アイテムボックスから盗まれた作物を出して置く。
そこにメモを書いて張っておいた。
『盗まれた作物を取り返しました。盗人は懲らしめたので、もう盗られることはないと思います! 某軍人より』
「これでよしっと! あーーー! 今日も疲れたぁー! 店まだやってるかなぁ。お腹ペコペコォ」
町に戻るとどの店も閉まっているようだ。
諦めながらいつもの店に行くと看板の電気が点いていた。
「えっ! やってる!?」
中に入ると、いつも通りマスターがコップを拭いていた。
「マスター! いつものパフェに、フルーツサンドつけて、あとワイン!」
「あいよ」
ここのマスターは無口な所がいいのだ。
情報が簡単には漏れない。
聞くところによるとマスターは元軍人らしく負傷して引退したのだとかなんとか。
落ち着いた佇まいは歴戦の軍人を想像させる。
「お待ち」
注文の品が出てくるとガッついた。
「いただきまーす! アムッ!」
フルーツサンドを口いっぱいに頬張る。
小動物の様にほっぺを膨らませてモキュモキュ食べる。
「んふー! おいひぃー!」
口の中に広がるフルーツの香りと甘酸っぱい味。
それを包む生クリームが甘さ控えめで優しい。
ほんっとにここのフルーツサンド大好き!
「ホント好きだわぁ」
心なしかマスターの顔が赤い?
そんな訳ないか。
もしかして私の為に開けてくれてたの?
まさかな。
あっという間にフルーツサンドを食べ終わるとパフェに取り掛かる。
「んー! これこれぇ!」
ルンルンで食べながらワインもグビッと一口ふくむ。
「あぁぁ! この一杯の為に仕事してるんだよねぇ!」
全てがあっという間になくなった。
「ご馳走様ー!」
会計を済ませて帰路に着く。
家に着いた頃には日が見えるくらいまで上っていた。
「はぁー疲れた。おやすみー!」
こんなに遅く寝たら自ずと出勤に間に合う訳もなく。
いつまで経ってもエマが来ない為、上司はお怒りだった。
「アイツはなにやってんだぁぁぁ!」
軍の詰め所には怒号が響いていた。
受付嬢の仕事も大事なのだが。
「すみませーん! 寝坊しました! テヘッ///」
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