ヘッポコな受付嬢が実は最強だった!?~国を平和にする為に密かに奮闘中~

ゆる弥

第1話 受付嬢の日常

「ぐわぁぁぁぁ!」


「に、逃げろ!」


 男達がローブを着た人から逃げ惑う。

 ローブの人はあとを追わずに手を翳す。


「アイスニードル!」


ザシュザシュザシュ


 男達の体を貫く。


「呆気ないわね。後の片付けは任せましょう」


ザザッ


『聞こえるかしら?』


『はい! こちら撤去班!』


『始末したから片付けはお願いするわ』


『了解です! お疲れ様でした!』


ブツッ


「はぁぁぁぁ! 疲れたぁぁぁ」


 伸びをしながら帰路に着く。

 ローブはアイテムボックスに収納し、今はTシャツにジャケット、下はプリーツスカートといった出で立ちになっている。

 先程のローブ姿の時は感じなかったが、かなり……小さいのだ。身長が。しかし、女性としては大きいものを持っている。

 夜中だったが行きつけの店はやっているようだ。


「マスター。いつものパフェとワイン頂戴」


「あいよ」


「はぁぁぁ。疲れたぁ。でも、自分が助けたかったんだもん。良かったよね」


ザザッ


『こちら処理班。処理を完了し、無事人質は保護しました』


『うん。ご苦労様』


ブツッ


 念話は突然入ることがあるので苦手だ。

 しかし、便利なことに変わりはない。


「なんか最近夜働いてばっかりだなぁ」


 バーのカウンターに大きな2つの柔らかいものを乗せ突っ伏している。

 マスターも見慣れたものである。


「こんな事ばっかりやってて、ホントにこの国は平和になってるのかなぁ……」


 いつもそんなことを悩みながらバーで一杯やっているのだった。


「失礼します。パフォとワインでございます」


「うん。ありがとう!」


 キラッキラの笑顔でお礼を言うとパフェをパクッと一口食べる。


「んーーー! これよこれ! おいひぃー」


 顔が蕩けてなんともいえない顔になっている。

 そしてワインをゴクリと飲む。


「あぁぁ。美味しいぃぃ。仕事の後はこれに限るわね」


「あー! やっぱりここに居た!」


 入口を見るとスラッとして綺麗な顔をした女がたっていた。


「何の用? 今私は疲れを癒してるのよ」


「また勝手に撤去班使いましたね?」


 顔を近づけて凄い形相で睨みつけてくる。

 しかし、これもいつもの事であった。


「うん。使ったわよ。だってそういう時の為の撤去班でしょ」


「秘密裏に動くなら自分で片付けてくださいよ! 書類になんて書けばいいかいっつも悩むじゃないですか!」


「そんなのテキトーでいいでしょ?」


「なら、自分で書きますか!?」


「書類仕事はソフィアの担当でしょ? 私は現場担当。適材適所じゃなぁい?」


「ぐぬぬぬ! マスター! エールください!」


「あいよ」


 怪訝な顔をしてソフィアを見る。


「あんたも飲んでいくのぉ?」


「エマさんに話して仕事は終わりですので! 問題はありません!」


 エールがソフィアの目の前に出されると、グビグビと飲み干した。


「マスターおかわり!」


「なんか休まらないなぁ」


 テーブルに突っ伏して言うと、ソフィアがこちらを睨みつけてきた。


「私なんて、エマさんの秘密裏な仕事のおかげで残業ばかりです! どうしてくれるんですか!?」


「んー。それは申し訳ないと思ってるわよ? でも、この国の平和の為にはまだまだ取り除かないと行けない害虫が沢山いるの。南の三国だっていつ戦争してくるか分からないでしょ?」


「それは……確かに。常に小競り合いはありますもんね。でも、なんで部下達を動かさないんですか?」


「んー? 私さ、受付嬢して分かったんだけど、兵士団も魔法師団もどっちも日々の業務で忙しいのよ。そこに依頼書が届いて、危険度の高いのだけ先に処理されるじゃない? そうすると危険度低い依頼書は放って置かれるのよ」


「まぁ、みんな忙しいですもんね」


「でも、今日行ったところもだったけど、危険度が低いと思って放って置いてたら国に危険が及ぶ可能性があったのよ。今日の奴らは人を脅して人を集めてレジスタンスを作ろうとしていたわ。きっと南の三国の何処かの工作員でしょうね」


「ふーん。依頼書は飲んで書いてあったんですか?」


「村からの依頼では、人が声を掛けられて連れていかれています。だったかしら」


「そんなんじゃ何もわかんないじゃないですか!」


「そう。だから後回しにされる」


「でも……そういうの全部エマさんが動く必要は無いんじゃないですか?」


「そうかもしれないけど、私は国を背負っているのよ。この国の人の為に身を粉にする気で働かないと行けないのよ」


 ソフィアにはエマのその小さな身体に大きな影がのしかかっている幻覚が見えたのであった。


◇◆◇――


「おはよーございまーす! はい! 受付こちらでーす!」


「今日も可愛いねエマちゃん。これ、兵士団からの魔法師団への依頼書ね」


「ふふふっ。ありがとーございます! 確かに、依頼書受け取りました!」


 両手で受け取ってぺこりと礼をする。

 すると、胸が押し上げられるのだ。

 男達の視線は釘付けになる。


「なぁ、エマちゃん、今度の休みにご飯行かない?」


「今度の休みは予定があって! すみません! また誘ってくださいね!」


「なんだ。残念。じゃ、またな!」


「はい!」


 胸の前で小さく手を振る。

 男は大きく手を振っている。

 こんなやり取りが一日に何回されることか。


 1人の老人がやって来た。

 足元が覚束無いようである。


「軍への……依頼は……ここですか?」


「はい! 受付こちらになりまーす! 依頼ですか?」


「そうなんじゃ……畑を……荒されて……困っとる」


「わかりました。伝えておきますね!」


「君は……受付嬢かい?」


「はい! そうです! 毎日では無いですけどね!」


 お爺さんの雑談に付き合うのも受付嬢の仕事の一環である。


「受付……というのも……大変じゃ」


「そーですねぇ。ずっと座ってなきゃいけませんし! ずっと笑顔で対応しないといけません! 大変です!」


「ホッホッホッ……元気……じゃな?」


「はい! 元気が取り柄です!」


 胸の前でグッと拳を握り元気いっぱいポーズをする。


「まぁ、無理……しないこと……じゃよ?」


 そういうと去っていくお爺さん。


「んー? なんか悟ってる感じで言われちゃった。そんなに疲れた顔してるかなぁ?」


 両手で頬を挟み首を傾げる。


「変な顔してないでさっさと持ち場に戻って下さいよ?」


 いつものガミガミ上司である。

 階級は大尉。ルーク・フェイルズという貴族出身の上司だ。いわゆるエリートというやつ。

 腰に片手をあてて怒ってますという格好をして怒鳴っている。


「はぁーい!」


 持ち場の受付カウンターに戻る。

 依頼書が来ないと暇な時もあるのだ。


 朝の陽気に気持ちがいいなぁと思い、カウンターに胸を乗せ、肘を着いてボーッと外を見ていた。


「……ちゃん!…………きて!…………エマちゃん!」


 ハッとして目を開くと目の前には兵士団の兵士がいた。

 少し顔が赤い。


「よかった! 寝顔可愛かったから見ていたかったけど、流石にその……カウンターにのせてる姿は来る人の目がどこ見ていいかわかんなくなるって言うか……なんというか……」


 下に視線を向けると大きなポヨンっとした物がカウンターに乗っている。


 これ重いのよねぇ。

 肩が凝っちゃうからこの方が楽なんだけど、やめましよっか。


 ポヨーンッとカウンターから下ろす。


「すみません! ありがとうございます! 気を付けますね?」


 ニコッと微笑んで礼を言うと。


「その……口の横……」


「ん? 何か付いてます?」


「ヨダレ……」


「あら! ごめんなさーい!」


 ハンカチでチョンチョンと拭いていると。


「では、これお願いします! 失礼します!」


 依頼書を置いて去っていく。

 なんで逃げる様に……?


「エマさん? 寝てたんですか?」


 上司のルークは口をピクピクさせながら怒っているようだ。


「気持ちよかったんですもん……テヘッ///」


「貴方って人は……」


 頭を抱えて呆れている。

 

 こんな受付嬢いかかですか?

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