えんれん幼馴染み vs きんれん彼女
「美優、なんか近くない? 」
「そんなことないよ~。光ちゃん」
何だか前にも聞いたことがあるような会話をしつつ、美優と俺は通学路を歩いていた。
この距離は明らかに近い。腕が当たる。すれる。
良い匂いがする!
そして、美優はちょ~ご機嫌だ。
頬をゆるめながら俺の隣をルンルンと歩く。
「美優何かいいことあった? 」
「今が、いいこと! 」
何だかよくわからないが、美優が嬉しそうだと俺も嬉しい。昔のような日常が帰ってきた気がした。
美優が朝ごはんに持ってきた玉子サンドは文句なく美味しかったし……。
「あ~ん」されるのは流石に拒んだけど。
心なしか周りの視線がキツイような気がするが、気のせいだと思いたい。
教室についてからも美優の調子は変わらなかった。机はゼロ距離でピッタリくっついている。そして、それ以上に美優は限界まで近づいてくる。
( 美優さん、柔らかい腕が当たってます。当たってますよ~ )
ヒソヒソ、ジロジロ、授業中も周りの視線と雑音が気になる。
吉野が先生面して
「おいっ、松田と織田!
授業中はいちゃいちゃするなっ」
と注意しながら、にらんでくる。
だか美優はめげない。
「吉野先生。これが私達の普通です。
そう見えるのは先生の問題です! 」
ピシャリとやり込める。
吉野が最近、桜井先生をデートに誘って断られたというのは生徒の中では有名な話だ。
吉野は顔を青くして黙り込んでしまった。目が少し潤んでいるようにも見える。
(あわわわわ……みぃちゃんらしくないよ。どうしたんだよ)
俺は何も言えずにうろたえる。
「 吉野先生~、授業を進めましょ~! 」
気を利かせた水戸が明るい声で励まさなかったら、授業は中断していたかもしれない。
水戸の席は、クラスの先頭中央に位置する俺よりも後ろの窓側だ。
チラリと後ろを振り向くと、水戸と目が合った。彼女は俺に、にこやかな笑顔を返す。
風で髪の毛が柔らかく揺れる。
その顔は、姿は、俺に『大丈夫だよ』と言っているように見えた。
それが嬉しくて俺の顔はゆるむ。
( 水戸は本当にいい子だよな~ )
そんな俺の気持ちを察したのか、美優が俺の耳元で囁く。
「光ちゃん。
授業中によそ見しちゃ、だ~めっ」
耳にかかる美優の息がこしょぐったくて、思わず椅子の上で跳び跳ねてしまう。
そんな俺を見て、美優は両手を口にあてて嬉しそうに笑っている。
( 子悪魔だ……みぃちゃんどうした?! )
その後も続く美優の悪ふざけに、俺は全く授業に集中できなかった。
◇
「圭吾~、俺もぉダメだぁ」
部活に行く途中の圭吾を男子トイレに拉致して、俺は弱音を吐いた。
美優はずーっと俺にベッタリだったのだ。
それを何とかまいて、俺はやっと親友を捕まえた。
圭吾は怒ったような目で俺を見る。そして、腕にしがみついた俺を振り払った。
「圭吾~」
逃がすまいと今度は腰にしがみつく俺を、圭吾は言葉で制した。
「光太郎、やめろ! 気持ち悪い 」
「うぅ……俺が頼れるのはお前だけだぁ~」
諦めようとしない俺に対して、圭吾はため息をつく。
「……わかった。ちょっとだけなら聞いてやるから、離せ。逃げないから」
「圭吾~」
俺の親友は優しいやつなのだ。
俺は美優の様子がおかしいと話す。
水戸とのことは内緒にして欲しいといことも。今の状況に混乱していて、自分がどうすべきか全くわからないと訴える。
圭吾の答えは――
「ん~っとな……お前と水戸が日曜日に一緒に歩いてたのはもう噂で広がってる」
「えっ? 」
「お前は知らないだろうけど、水戸はモテるんだよ。そこそこ可愛いし性格も良いから。
んで、織田と水戸って、うちの学年の人気女子なわけよ」
「へっ? 」
「だから、お前は今、学年の男子ほぼ全員を敵にまわしてる」
「ほぇ? 」
「そんで、まぁ……俺も少なからずムカついてる。 緊急事態は対応苦手なの知ってるけど、今回は自分で頑張れよ」
「圭吾ぉ……」
「お前は自分で思ってる程、普通じゃねーよ」
そう言って、圭吾は足早に去っていった。
( 俺って……なに? )
もう俺にはわからない。
放心状態で部活を終え、くっついてくる美優を咎める気にもなれず、チクチクとした視線を受ける。
殺気を感じる!
やっと家について部屋でのんびりしていたら、更なる追い討ちが俺を襲う。
ブーブー
織田美優:
光ちゃん♡ さっきは聞き忘れちゃったけど、花火大会、今年も一緒に行くよね?
お母さんが、浴衣新しいの買ってくれるって♪ 楽しみだなぁ~♡
ブーブー
水戸綾子:
織田くん、こんばんは。
嫌じゃなかったらなんだけど、今度の花火大会一緒に行きませんか?
無理しなくていいんだけど、隣で花火みれたらっと思ってしまいました。
お返事待ってます。
俺はどうすればいい?
夏休みはすぐそこだ……。
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