幼馴染みが本気で距離縮めてきた……

 光ちゃんっ


 だぁ~いすき


 すきッ!


 ふふふ~ か~わいいっ



 俺は夢を見ていた。


 美優が俺の耳元で囁くとんでもなく幸せな夢だ。思わず頬がゆるみ、この甘さをいつまでも堪能していたくなる。

 心なしか彼女の温もりさえも感じる気がする。


( みぃちゃん、俺もめっちゃ好きだよぉ! )


 夢の中で叫ぶ。心の底から思いっきりだ。


 本当はずっと言いたかった。

 何をしていても可愛すぎる俺の大事な女の子。


 本当は誰よりも傍にいて自分の手で守りたかった。俺が美優を諦めるのには、情報通の水戸も知らないもう1つの理由がある。

 個人の努力ではどうしようもないこともあるのだ。


 ずっと我慢しているのだから、夢の中くらいは本音を出したっていいだろ?



「みぃちゃん……すき」


「 えっ? 」



 ジリリリリリリリリリッ



 枕元の目覚まし時計が俺の夢を壊す。

 美優の声が聞こえた気がするが、そんな訳はない……


 ――筈だった。


「 なぁぁぁぁぁぁ! 」


 バァンッ!


「 光太郎! ご近所迷惑ッ! 」


 朝から不機嫌な母さんはさておき、

 確かに早朝からの大声はご近所に申し訳ないのも置いといて……


  なんで、美優が朝から俺の部屋にいんの?!


 俺は驚きすぎて口をパクパクさせながら、彼女を凝視してしまう。


「……光ちゃん、おはよぉ」


 恥ずかしそうに顔真っ赤にしてるけど、上半身だけ起き上がった俺の手がしっかりと美優に握られてるのはなんでだ?


 この状況が幸せな新婚生活を予感させるのは何故だ?


(みぃちゃんがお嫁さんだったら……)


 思わずピンク色の甘い妄想が浮かびそうになり、俺はブンブンと頭を振って煩悩を打ち消した。


「 み、み~ちゃん、なんでここにいんの? 」

「えっとね……昨日おばさんに相談したら、毎朝光ちゃん起こしに来てもいいって許可もらえたんだけど、聞いてない?」


 目を合わせないように、少し視線を漂わせながら美優は小さく言う。その間も変わらず俺の右手は美優の両手で覆われている。


 嬉しいんだから振り払える訳もない。


( 一体何の相談だ?!  昨日俺が水戸とデートしている間にどんな話をした? )


「 えっと……聞いてない。

 ちょっ、 かぁさん!! 」


 その場から動けない俺は、無謀にも既に立ち去った偉大なる母親を声で呼んだ。


 ドスの入った足音が聞こえて、部屋のドアから母さんが顔を出す。


「あんた、私が朝は忙しいの知ってるわよね? 」


「あ、えと、お母さま、すみません。

 でも、美優が何で俺の部屋にいるのかな~と思いまして」


「 そんなの、美優ちゃんがそうしたいって言ったからに決まってんじゃない?!

 あんたは理性と常識は持ってるから変なことはしないって信用してんの!

 ヘタレ息子のぺにょんぺにょんの意思よりも隣の家の可愛い頑張り屋ちゃんを応援するのは当たり前でしょ?

 分かったら早くそのゆるんだ顔洗って来なさい。ったく、だらしない! 」


 そう言い捨てて、出勤準備中の母は去っていった。


 俺は美優の顔を見る。

 穴が開く位にじーっと見つめる。


( み~ちゃん、何の相談? あの夢は……)


「 光ちゃん、あの……

 さっき言ってくれたこと私嬉しかった」


 美優が勇気を出してその言葉を紡いだのは俺に伝わった。手が震えていたから。


「 朝御飯作って持ってきたのっ

 一緒に食べよ? 」


 美優が優しく俺の手を引く。

 その顔には安心しきったとびきりの笑顔が浮かんでいる。


(あ……ヤバい。好きすぎる)


 俺はベッドから起き上がり美優の後をついていく。今は片手だけどその手は繋がったまま。


 俺は理性と常識には自信がある。


 そんな俺でもこの手は離せない。



 ……えっと、これは浮気でしょうか?


 俺の身の丈にあった青春ラブコメは、どうやらかなり波乱万丈らしい。


 ――俺の精神は崩壊寸前だ。

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