初デートは彼女のお家 ~付き合う条件~
俺が待ち合わせ場所の公園に着いたのは、約束の15分前だった。
鉄棒とブランコしかない小さな公園の木の下に水戸はいた。
ノースリーブで膝丈の白いワンピースに日傘を持っている。
「ごめん待った? 」 と声をかけると、
彼女は真っ赤な顔で振り向く。
「今来たとこだよ」
と言う割には額から汗が滴り落ちている。
(うわ~、カップルっぽい会話~)
水戸の気遣いに、俺は急激に緊張してきた。
女の子を待たせたくはなかったが、あまり早く来ても保冷剤が溶けてしまうので、この時間に来たことを後悔する。
「私の家すぐ近くだから、行こっか」
そう言う水戸の横に並んで歩きだす。
ジリジリと照りつける太陽に、
「暑いでしょう? 」
と水戸は俺に日傘を差しかけようとする。
先ほどまで傘の下で身を縮めていた彼女を知っているので、
俺は「大丈夫だよ」と返事した。
そもそも相合傘をするのは気恥ずかしい。
美優とは逆で近距離練習が必要かもしれない。
水戸の家は公園から5分程度のところにある立派な一軒家だった。 花壇はきれいに手入れされ、色とりどりの花が咲き乱れている。
「どうぞ」と言われて、家の中に足を踏み入れると、すぐに水戸のお母さんらしき人が出てきてくれた。
「いらっしゃい。暑かったでしょう?
あなたが松田くんね。綾子からよく話は聞いてるわ」
にこやかな顔で話すお母さんは、包み込むような優しさと上品さを漂わせていた。
「はじめまして、松田光太郎といいます。
あの、これつまらないものですが……」
俺がケーキ屋の紙袋を差し出すと、
「気をつかわなくてもよかったのに」
水戸とお母さんは困った顔をしつつ、嬉しそうではあった。
(ふぅ……母さんに感謝しないと)
「私の部屋行こ? 」
そう言って、水戸は顔を赤らめながらも階段を上っていく。
1歩前を行く水戸のワンピースからは白い足が見え隠れする。
(パンツが見える訳でも何でもないのに動悸が止まらんっ。これが女子宅マジック? )
160センチでモデル体型の美優とは違う、少しだけ丸みのある脚。
158センチの俺よりも水戸は身長が低い。
先ほど隣を歩いていた時にその事に気がついた。
何もかも美優基準の俺には新鮮な身長差。
これから伸びると信じているが、飲み過ぎで牛乳嫌いになりつつある俺を安心させるには十分だ。
「どうぞ」
水戸の部屋は綺麗に片付いていた。
ピンクが好きなのか、ベッドのタオルケットや置いてある小物、クッション等は全て桃色だ。
(うわ~思いっきり女の子の部屋! )
くまが好きなのか、ぬいぐるみが置いてある。そして本棚にはたくさんの恋愛漫画。
そのチョイスも俺好みのものばかりでビビる。
(なんか幼馴染みもの多い……? )
「お茶持ってくるね。適当に座ってて」
部屋を凝視してしまう俺を水戸は何も言わずに見つめていたが、おもむろにそう言って階下へ降りていった。
整頓された勉強机には参考書が並んでいるが、その中の一冊に目が止まる。
それは小学校の卒業アルバム。
(水戸は俺と同じ小学校だったのか? )
懸命に記憶を辿るが彼女の姿は見つけ出せない。
そもそも常に美優しか見ていない俺の記憶には他の女の子はほぼいないのだ。
告白されたことも皆無。
(水戸が言った『前から好きだった』っていつからだ? )
考えている間に水戸がお茶をトレイにのせて戻ってきた。
「松田くん、お待たせ。ごめんね。
外暑かったから喉乾いたでしょう? 」
そう言いながらコースターと麦茶の入ったガラスのコップを小さなテーブルに並べていく。
さっきまで汗だくだった水戸からは、何故かせっけんのような甘い匂いが漂う。
唇は艶のあるピンク色。
(もしかして……身なり整えてきた?
えっ、可愛いんだけど……)
じっと見ていると、目が会うたびに恥ずかしそうにそらされる。
その仕草が俺のことが好きだと言っているようで俺まで照れてしまった。
お互いに言葉が出てこない。
告白した日も電話でも、会話をリードしてくれた水戸は何故か口ごもっている。
(ここは、俺が男を見せる時だよな? )
「あ、あのさ水戸、聞きたいことがあるんだけどいいかな? 」
「う……うん、何でも聞いて」
俺の言葉に、水戸は正座した背筋をピンと伸ばして俺の方を見る。
「こんなこと聞くのもヤボかなと思うんだけど……。
俺のこと好きっていつから?
あと、もし本当に好きならなんで付き合う条件が
【織田美優を好きで居続けること】なの?
俺としては好条件だけど……
ってそれも失礼か。ホントごめん。
でも矛盾してる気がして。
ちゃんと水戸と向き合いたいから教えて欲しい」
水戸の目が俺を捕らえる。
吸い込まれそうな茶色の瞳。
彼女は一呼吸置いて、口を開いた。
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