第四十二話 事件は唐突に

 時はあれから少し後——夕方。

 場所は『魔王の迷宮』の目の前。


 現在、オズとミーシャはポータルを通り、この場所へと戻ってきていた。


「オズ様、今日はありがとうございました!」


 と、言ってくるのはミーシャだ。

 オズはそんな彼女へと言う。


「何度も言うが、お礼を言うのは俺の方だ。ボスを倒せたのも、そもそも冒険に出れたのもミーシャあってこそだからな」


「でも、それでもやっぱりありがとうございます! オズ様のおかげで、また一歩アリサを救うゴールに近づきました!」


「そう言ってもらえると助かる。ところでその鉄製の杖、重くないか?」


「はい、大丈夫です!!」


「もしあれなら、すぐ近くの冒険者ギルドに武器一式を預けておけるが」


「いえ! 預けるなんてとんでもないです!!」


 ふんすっ、といった様子のミーシャ。

 彼女は鉄製の杖——ダンジョンで手に入れたそれを、大切そうな様子で抱きしめながらオズへと言ってくる。


「この杖はオズ様と初めてのボス討伐で手に入れた、大切な大切な物なんです! 肌身離さず持っています!」


「肌身離さずって…….寝る時もか?」


「寝る時もです!!」


「……」


 まぁあれだ。

 大切にしてくれるなら何よりだ。


 さてさて何はともあれ。

 時刻はもうすぐ夜だ。

 そろそろミーシャとは別れ、互いに帰路についた方がいいに違いない。


 などなど。

 オズがそんなことを考えた。

 まさにその時。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


 と、尋常ではない様子の女性が、大声で手を振りながらこちらへと走ってくるのだった。

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