第三十六話 アリサ・ライゼス②

「お姉を助けてくれて、その……あ、ありがと」


 と、恥ずかしそうな様子で言ってくるアリサ。

 オズはそんな彼女へと言う。


「どういたしまして。でもミーシャにも言ったけど、人を助けるのは冒険者として当然のことだから——」


「あんた、冒険者なの!?」


 と、すごい勢いで食いついてくるアリサ。

 そういえば、ミーシャから聞いていた——アリサの将来の夢は冒険者になり、ダンジョンを冒険することだと。


「ねぇ、返事しないさいよ!」


 と、再び聞こえてくるアリサの声。

 オズはそんな彼女へと言う。


「あぁ、まぁ一応冒険者になるかな。諸事情で一人で戦えなくはなったけど」


「一人では戦えない? でもお姉が、オズにはすごい力があるって……」


「あ、いや——」


 やばい、この話は内密にするべき話題だ。

 理由は簡単。


(この話を続けてたら、確実にスキル『腹パン』の話になる!! だっておそらく、ミーシャが言ってた俺の力って、ほぼほぼそれのことだもんな……)


 そんなもの話せるわけがない。

 だって考えてみろ。

 

 オズは戦闘のたびに、ミーシャの腹に全力でパンチしているのだ。


 そんなのアリサから見れば、完全にやばいやつだ。

 かなり短い付き合いだが、それを知ったアリサの反応など容易にわかる。


『へ、変態!! お姉になんて事してるのよ! 絶対に許さないんだから!』


 これだ。

 もしバレたら、こうなる未来しかない。


 この未来を回避する方法は一つだ。

 それは——。


「と、ところでアリサ……ちゃん? よかったら冒険者について、いろいろ教えてあげられるけど」


 と、オズは言う。

 そう、これこそは話を変える作戦。

 だがしかし。


「アリサ、ちゃん?」


 ピキっとした様子で言ってくるアリサ。

 瞬間、オズは致命的なミスを犯したことに気がついた。


(まずい、うっかり子供扱いしてしまった)


 経験上、誰かの妹というポジションの子は、子供扱いされると怒る傾向にあるのだ。

 はたしてアリサは——。


「お、お姉! こいつ変態、変態なんだからね!! あ、あたしのこといきなりちゃん付けって……どういう距離感なのよ、こいつ!!」


 と、顔を真っ赤にしながら、そんなことを言い出すアリサ。

 なるほど、予想とは全く違う反応だ。

 そして、そんな言葉に対して騒ぎ出す人物がもう一人。


「オズ様は変態じゃないです! 訂正してください!! わたしのためにわたしを殴ってくれる、とても優しい方です!!」


「殴……っ、お姉!?」


 と、ミーシャに対してそんなことを言うアリサ。

 次の瞬間、彼女はオズを睨みながら言ってくるのだった。


「ちょっとあんた! お姉にいったい何してるのよ!!」


 

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