第二十九話 腹パンVSビギナー狩り③

「ミーシャ!!」


「はい!」


 と、オズの声に返してくるミーシャ。

 オズはそんな彼女へと即座に振り返る。

 そして。


 大きく地面に一方の足を踏み込む。

 そして、振り返った勢い——回転の力を乗せた拳を。


 ボゴォオオオオオオオオオオッ!!


 ミーシャの腹へと叩き込む。

 同時。


「お゛……ほっ」


 と、体をエビのように曲げて苦しんだ様子の声を上げるミーシャ。

 間違いなく入った。


(今回も渾身の『腹パン』を発動できた!)


 などなど。

 オズがそんなことを考えていると。


「な、何だコイツ!? 味方を攻撃しやがった!」


「仲間割れか!?」


「ナカマワレ! ナカマワレ!」


 と、そんなことを言ってくるビギナー狩りの三人。

 オズはそんな奴らを無視し、ミーシャへと言う。


「ミーシャ。今からするのは対人戦だ——魔物との戦いとは、大きく違うから気をつけて」


「ぅ……おぇ。ど、どうして、でしょう……か?」


 と、吐きそうな様子で言ってくるミーシャ。

 オズはそんな彼女へと言う。


「人間は勝つためなら、なんでもやってくる。それもモンスターなんかより、数段頭を使ってだ」


「油断するなと……言うこと、ですね?」


「あと一つある。相手が人間だって言うこと」


「?」


「まぁ、いざという時に『相手が人間だ』って思い出して、躊躇ったりは絶対にしないで。戦いで躊躇ったら、命にかかわる」


「っ……はい!」


 実際、オズは過去それで手痛い反撃を受けたことがある。

 ミーシャには同じ轍を踏んでほしくないのだ。

 などと考えていると。


「おいおい、もうお話は十分か?」


 と、言ってくるビギナー狩りの一人。

 奴はオズを指差し、嘲るような調子で言ってくる。


「能無しの雑魚になった挙句、仲間割れとは……情けねぇ奴だぜ! てめぇみたいな奴を冒険者の面汚しって——」


 と、不自然に途切れる男の声。

 そしてやや遅れて。


 ドゴォッ!!


 と、聞こえてくる何かが壊れるような轟音。

 続けて、ダンジョンすらも揺らす衝撃と疾風。


 気がつくと、ビギナー狩りの一人が居なくなっている——先程まで、オズを馬鹿にしていた奴がだ。


(バカな!? 移動したのか?)


 だとするとやばい。

 オズに目視すらできない速度で移動できるとなると、このビギナー狩りは予想以上の強さということになる。


(どうする……ミーシャを連れて逃げるか!?)


 などなど。

 オズがそんなことを考えた。

 まさにその時。


 パラ。

 パラパラ。

 カランッ。


 ダンジョンのやや奥——ビギナー狩り達の背後から聞こえてくるのは、石片が砕け落ちるような音。


 オズと……なんなら、ビギナー狩り達もだが。

 一人を除き、おそらくその場にいる全員がゆっくりと、音がした場所へと目を向けると。

 そこにいたのは——。


「言ったはずです。オズ様を……馬鹿にしないでください!!」


 ビギナー狩りの一人の顔面を鷲掴みにし、ダンジョンの壁へと叩きつけ——そのまま見事に奴を壁にめり込ませているミーシャの姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る