第二十七話 腹パンVSビギナー狩り

 一層でダンジョンスパイダーを倒してからのミーシャはもうノリにノっていた。


 第二層。


「オズ様! ゴブリンです! ゴブリンの群れです!! 避けて通るより、突っ切ったほうが早い——お゛っ」


 ボゴォッ!


 続く第三層。

 第四層共に……。


「オズ様、さぁ!! わたしの準備はできています!! 全力で、オズ様の全てをもって、わたしのお腹をめちゃめちゃにしてくだ——お、ほっ」


 メリッ。

 グリグリグリィッ!!


 そしてやってきました第五層。

 ここを踏破すれば、今回の冒険の目的地——地上への帰還ポータルがある。


 けれど。

 ここに来て問題が発生した。


「おっと、てめぇら……ここは通行止めだぜぇ」


「そうそう。ここを通りたかったら一人につき五万エン——二人合わせてそうだな、十二万払いなぁ!」


「ケヒヒヒヒッ! ヨコセヨコセ!」


 と、そんなことを言ってくる三人組。

 奴らはダンジョンの通路を塞ぐようにして立っている。


 ビギナー狩りだ。


 ポータルが存在するダンジョンでは、こういった輩がよく居るのだ。


 性質上ベテランはポータルを使うため、ダンジョン低層には来ない。

 となると当然、低層にいるのはビギナーのみ。


 そして、ベテランの中には金欠に陥り闇落ちする輩がいる。

 そういう輩が、低層にやってきてビギナーをカモに金をゆする。


 それこそがビギナー狩り。

 タチが悪いのは、腐ってもベテランゆえそれなりに強いことだが。


(立ち振る舞いからして、ところどころに隙がある)


 ベテランではあるが、猛者といった雰囲気は感じ取れな——。


「あ、あの……通行量なのですが、どうして二人合わせて十二万エンなのですか?」


 と、オズの思考を断ち切るように言うのはミーシャだ。

 彼女はひょこりと首を傾げながら、ビギナー狩り達へと言う。


「一人あたり五万エンなら、合わせて十万エンのはずです! お願いします……計算しなおしてください!!」


「あ? てめぇ馬鹿にしてんのか?」


「ケヒヒヒヒ、コイツコロソ!!」


 と、ミーシャの言葉に対し言ってくるビギナー狩り達。

 彼らの最後の一人は、おもむろにポケットに手をポケットへと突っ込み——。


 ヒュッ!


 と、かなりの速度でナイフを投げてくる。

 それもあろうことかミーシャにだ。


(とんでもないクソだな、こいつら)


 と、オズはナイフよりも早くミーシャの前に移動。

 そして、人差し指と中指でナイフを受け止める。

 一方、ミーシャはというと。


「?」


 と、なにが起きたのかわからない様子。

 今の彼女は身体強化されていない——きっとナイフを投げられたことすら気がついていないに違いない。


 オズはそんなミーシャを少し下がらせる。

 そして、彼は続けてビギナー狩り達へと言う。


「ささっと失せろ。こっちの女の子はともかく、俺はビギナーじゃないぞ」


「う、ぐ……」


「あ、アニキ! ど、どうするんで?」


「ナイフトメタ、コ、コイツ、ツヨイ?」


 と、オズの言葉に対し怯えた様子を見せる三人。

 ビギナー狩りは腐ってもベテラン——オズとの実力差くらいは理解できたに違いない。


(これでどうなる? 怯んでくれるか?)


 なんせ、さっきのはハッタリだ。

 まぁ、オズがベテランの中でも強者であり、この程度の相手に遅れはとらないのは本当だが。


(それは昔の話だ。今の俺はまともに戦えないからな……)


 何なら今のオズは、後ろで首を傾げているミーシャにすら勝てないまである。

 だって攻撃したら、ミーシャが強くなってしまうのだから。


(さぁ、頼むから引き下がってくれ)

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