第十七話 はじめての腹パン③

「オズ、様……これは、この力は……いったい?」


 と、言ってくるのはミーシャだ。

 そして、彼女の周囲にあるのはゴブリンのバラバラ死体。


 何が起きたかなど、見てなくてもわかる。


 ミーシャだ。

 スキル『腹パン』の力で超強化されたミーシャが、ゴブリン達を瞬殺したに違いない。

 そして、そんなオズの考えを証明するかの様に——。


「オズ様に殴られて、お腹がとても痛くて……でも少ししたら急に痛みが引いて」


 と、そんなことを言ってくるミーシャ。

 彼女は自らの拳を見つめながら、オズへとさらに言葉を続けてくる。


「体中にいきなり、凄まじい力が漲って来たんです……それで、今ならゴブリン達を倒せるかもって——」


「ありがとう」


「え、はい?」


「ありがとう、ミーシャ! きみのお陰で助かった!! それと、いきなり殴って本当にごめん!!」


「お、お礼を言うのはわたしの方です! それに謝る必要もありません!! だってこの力、オズ様のおかげなんですよね? 現にオズ様に殴られた直後にこんな……」


 と、ミーシャはまるで確かめる様に、近くの木を軽い感じで殴りつける。

 直後。


 ボッ!


 木は消滅した。

 ミーシャの拳の威力で、木はどこかに吹っ飛んでいったに違いない。


「……」


 なるほど、これはやばい。

 オズはカラテマスターとして、素手で戦闘を行なっていたからわかる。


(今のミーシャの実力は世界最高レベルだ!! あんな軽いパンチで、気を吹き飛ばすなんて俺でもできないっ!!)


 スキル『腹パン』。

 さすがにここまでとは思わなかった。


 オズは確かに戦闘職としての命を絶たれた。

 そのせいでダンジョンに潜るのは不可能だと考えた。

 だがしかし。


(この腹パンをうまく使えば、まだまだダンジョンに潜れるんじゃないか? だってこの力は——このスキル『腹パン』は)


 最強クラスのサポートスキルだ。


 味方をあれほど強化できるスキルも魔法も、オズは未だかつて見たことがない。


 いける。

 このスキルならばサポーターとしてやって……行け——。


「あ、れ?」


 おかしい。

 世界がくるくる回っている。

 それに目の前が真っ赤だ。


「……」


 オズがなんとなしに、自らの額に触れてみると。

 ヌルっとつく大量の血。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


 と、何かを言っているミーシャ。

 そういえば思い出した。


(俺、ゴブリンの棍棒で思い切り頭を叩かれてるんだった)


 その直後。

 オズの意識は闇の中に落ちていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る