第十六話 はじめての腹パン②

「お゛……っ!?」


 と、苦しそうな声を上げるミーシャ。

 彼女は涎を垂らしながら、わけがわからないといった様子の顔をしている。


 ミーシャには悪いが、これでいい。

 オズの渾身の拳は、彼女の腹にクリティカルヒットした。

 その衝撃は腹の肉を伝わり、間違いなく内臓まで届いたに違いない。


(さぁ、どうなる?)


 と、オズはミーシャの腹に深くめり込んだ拳を引く。

 すると——。


「ぁ……か、はっ」


 と、その場に膝から崩れ落ちるミーシャ。

 彼女は涙を浮かべ、口の端から涎を垂らし、苦しそうにお腹を抑えながら、上目遣いでオズを見上げてくる。


 ミーシャは何も言ってこない。

 けれど、彼女はこう言いたいに違いない。


『どう……して、こんなっ?』


 こんなミーシャを見るのは、オズだって辛い。

 今すぐにでも謝っ——。


「Gyyyyyyyyyyyyyyyy!」


「Ggeeeeeeeegegegegegegegegegege!!」


 と、オズの思考を裂く様に聞こえてくるゴブリンの声。

 彼が奴らの方へと振り返ると。


(くそっ、ここまでなのか!?)


 いよいよオズ達を痛ぶる相談が終わったに違いない。

 五匹のゴブリンが棍棒を振り上げ、オズ達の方へと駆けてくるところだった。


 それを見て、オズは咄嗟に両手を広げ、ミーシャの前に立つ。

 もうオズの身体は殆ど動かない。


(最後にせめて、せめてミーシャの盾に!)


 考えたのち、オズは目を瞑る。

 いずれ遅いくる痛みに備えるために。


 ……。

 …………。

 ………………。


「?」


 おかしい。

 いつまで経っても痛みが襲ってこない。

 それともまさか、すでにオズは死んでしまったのだろうか。


 などなど。

 オズはそんなことを考えながらも、状況確認のためにゆっくり目を開ける。

 すると見えてきたのは。


「オズ、様……これは、この力は……いったい?」


 粉々になった五匹のゴブリンの死体の中央。

 そんなことを言ってくるミーシャの姿だった。

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