第十五話 はじめての腹パン

(スキル『腹パン』ってこれ、仲間に——人間に使ったらどうなるんだ?)


 いやまて。

 まてまてまて。


(何考えてんだ俺は!? 棍棒がクリティカルヒットせいで、本当にわけのわからないことを考えてるぞ……)


 だがしかし、本当にわけのわからない考えなのか。

 むしろ、落ち着いてくれば落ち着いてくるほど、先の考えは捨て置けないものな気がしてくる。

 なぜならば。


「gya!」


「Gy! Gy!!」


 と、オズと少女を指差して楽しそうにしているゴブリン。

 やはりオズの攻撃は効いていなかったに違いない——奴らは元気いっぱいだ。


 大方奴らは今頃『どうやってこいつらを痛ぶるか』と言った旨を話して楽しんでいるに違いない。


 そう。

 オズ達は絶対絶命なのだ。

 けれど、まだ最悪ではない。


(毒のせいで身体がだんだん動かなくなってきてる。でも、まだ……まだあと一行動分くらいは動ける)


 一行動。

 すなわちパンチ一回分。


(スキル『腹パン』に全てを賭けてみるのは、決してありえないことじゃない)


 そうだ。

 もう一度、最速で整理しろ。


スキル『腹パン』

 保有者が肉弾攻撃を行った場合、その威力に応じて攻撃対象を超強化する。


スキル『不殺』

 保有者が攻撃を行った際、いかなる場合においてもその攻撃で対象を撃破することができない。


 まず『腹パン』は敵にしか効果がないとは書いてない。

 であるなら、ワンチャン味方を殴って強化できる可能性がある。


 そして『不殺』。

 これもまた敵にしか効果がないとは書いていない。

 味方にも効果があるとしたら——。


(俺があの女の子を全力で殴ったら、スキル『不殺』の効果で行動不能になることなく、スキル『腹パン』の超強化を享受できるんじゃないか?)


 スキル『腹パン』は、ただのスライムですら超絶強化された。

 それこそライルとランカでも倒せないほどに。


(これだ……これしかないっ)


 考えたのち、オズは力を振り絞って立ち上がる。

 そして、彼はゴブリンへ背を向け、ゆっくりと女の子の方へと近づいていく。

 すると。


「あ、あの……大丈夫です、か?」


 と、恐ろしいだろうにオズの心配をしてきてくれる少女。

 オズはそんな彼女へと言う。


「俺を信じてくれ」


「え……それっていったい?」


「きみを助けるには——俺たちがこの場を生き残るためには、こうするしかないんだ!」


「……っ、信じます! わたしはあなた様を信じます! だって、こんなになってまで助けようとしてくれる、とても優しい方ですから!」


 と、オズが内容を言う前にそんなことを言ってくる少女。

 ならはもう言うべきことはない。


 行動で表すのみ。


 考えたのち、オズはゆっくりと足を開き、右手を引いてカラテの型を取る。


「あなた様の名前を……聞かせてくださいますか?」


「俺の名前はオズ。オズ・ザドフィール」


 と、少女の問いに対し返すオズ。

 すると、彼女は両手を胸元で祈る様に組みながら、彼へと言ってくる。


「オズ様……あなた様のことは一生忘れません」


「きみの名前は?」


「ミーシャ。ヒーラーをやっているミーシャ・ライゼスです」


「ミーシャ、準備はいい?」


「はい。どんなことでも受け入れます!」


 と、真っ直ぐにオズを見つめてくるミーシャ。

 オズの背後では、いよいよゴブリン達が騒ぎ出している。


 オズの身体の調子も、そろそろ限界だ。

 今やるしかない。


 考えたのち。

 オズは残る全ての力を右手へと込める。

 そして、健気な様子で祈っているミーシャの腹へと狙いを定め。


 ドッ。

 ボゴォッッッッッッッッ!!!!!


 聞こえてくるのは、ミーシャの腹へとめり込むオズの全霊の拳による撃音。

 同時、木々を震わし大地を揺らすほどの衝撃。


「お゛……っ!?」


 と、やや遅れて苦しそうな声を上げるミーシャ。

 彼女はわけがわからないといった様子で、腹にめり込むオズの右手を見つめている。


(さぁ、どうなる?)

 

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