第八章 仲間との絆③

 いったいあれから、どれくらい時間が経ったのか。

 気がつくと、すっかり日が沈み雨まで降っていた。


「帰らないと……」


 言って、オズはパンデモニウムにある自宅を目指し歩き出す。

 その間も考えるのは先ほどのこと。


 ライルとランカがオズに言った言葉。

 彼等の本当の気持ち。


(ずっと、二人のことを大切な仲間だと思ってた。二人のためなら、命を賭けても惜しくないって)


 だから、ダンジョンでライルを庇った事を後悔はしていない。

 とんでもないクソマイナススキルが付き、冒険者生命は致命傷を受けた。


 それでもライルは無事だった。

 ランカを悲しませずに済んだ。


(戦闘職としては終わりでも、荷物持ちや雑用として二人の仲間で居られるのなら…….俺は)


 ……。

 …………。

 ………………。


 気がつくと、いつのまにかパンデモニウムに着いていた。

 そして同時、おかしなことに気がつく。


(なんだ? みんな俺を見ているような……)


 どうにも気になったオズ。

 彼は近くの男性を止め、その人へと言う。


「あの、どうして俺を見てるんですか? あなただけじゃなく、他のみんなも」


「い、いやぁ……それは」


 と、なにかを言い淀む様子の男性。

 オズはそんな男性はと言う。


「気にしないんで言ってください。お願いします」


「いや、ほら……なんというか。さっき男女の二人組がデカい声で話してた——というより、知らせて回ってたんだよ」


「何を、です……か?」


「『もうすぐパンデモニウムに帰ってくるオズってやつは、マイナススキルのせいで戦えなくなった。それどころか、敵を強化しちまう間抜けだ。絶対にパーティーを組まない方がいい』……ってな」


「……」


「わ、私は別に他意はないんだ。ただその……あんた、もうダンジョンに潜るのはやめた方がいい。この街であんたとパーティー組む人はもう……そ、それじゃあ私はこれで」


 なるほど、そういうことか。

 冒険者にとって——特にダンジョンに潜る『この街の冒険者』にとって、前評判は大切だ。


 なんせ『魔王の迷宮』の敵は最高峰。

 危険度も最高なのだ。


 仮に荷物持ちに雇うとしても。

 いざという時、多少戦える者を雇うのが鉄板。


 オズはどうだ。


 いざという時。

 戦ってしまったら、敵を余計に強くしてしまう。


「は……ははっ」


 なんだ、それ。

 こんなの。


「とんでもない役立たずじゃないか」


 そんな役立たずには、きっともうダンジョンに潜る資格はない。

 人並みの夢を追う資格すらない。


(俺を仲間にしようとする人なんて、これで完全に居なくなったな……)


 戦闘職としても、荷物持ちとしても、雑用としての道も絶たれたわけだ。


(いや、このマイナススキルを取った時点で、そんなもの最初から断たれていたんだ)


 さっきも言った通り、いざという時戦えないのだから。

 荷物持ちとしても雑用としても、並以下だ。


 ある意味、ライルとランカには感謝した方がいいに違いない。

 なぜならば。


(他の人に迷惑をかけないで済んだ……もし俺なんかとパーティーを組んでしまったら、その人がかわいそうだ)


 そうだ。

 こんな状態で夢を追いかけるな。

 

 オズはもう死んだも同然。

 その死に、他の冒険者を巻き込むべきではない。


 オズ・ザドフィールの抜け殻。

 夢の残骸。


 これからはそうして生きていこう。

 生きて——。


「生きている意味、あるのか……な」

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