第三話 腹パンでヒロイン強化できるってマ?③

「オズ様、オズ様!! わたし、やりました!! オズ様のおかげでボスを倒せました!」


 と、オズへと抱きつきながら言ってくるのはミーシャだ。

 オズはそんな彼女へと言う。


「いや、俺なんてほとんど何もしてないよ。ガーディアンガーゴイルを倒したのはミーシャだ」


「でも、オズ様が居なかったとても倒せない敵でした! オズ様のサポート能力はやっぱり最強です!」


「最強は言い過ぎたと思うけど……それより怪我はない? さっきはお腹を思い切り殴っちゃってごめんね?」


「怪我はないです! それに…….」


 言って、オズから離れるミーシャ。

 彼女は自らのお腹を撫でながら、何故か恍惚とした様子で彼へと言ってくる。


「な、何だか変な感じなんです…….」


「変ってなにが!? ひょっとしてお腹が——」


「あ、いえ! そういう意味じゃないです! ただなんというか、最近こう……オズ様にお腹を殴られると何故か……キュンって、お腹の下辺りが」


 と、手をお腹から下腹部へと移動させるミーシャ。

 なんだかよくわからないが、無事ならば何よりだ。


「そ、それよりオズ様!」


 と、ハッとした様子で言ってくるミーシャ。

 彼女はオズへとさらに言葉を続けてくる。


「今日は記念日ですね!」


「えっと、何のだ?」


「一緒にパーティーを組んで、このダンジョン——『魔王の迷宮』の踏破を目指し出してから、初めてのボス撃破です!」


「あぁ、そうだな。改めてありがとう、ミーシャ。俺なんかとパーティーを組んでくれて」


「オズ様だから組んだんです! そしてその判断は間違ってませんでした! オズ様となら絶対にわたしの目標を達成できます! そして、いつの日かこのダンジョンを踏破するんです!」


 キラキラ。

 キラキラキラ。


 と、瞳を輝かせて言ってくるミーシャ。

 オズにとって、そんな彼女は本当に輝いてみえる。

 何故ならば。


 この『魔王の迷宮』の最奥にあると言われる、世界最高の宝物『魔王の遺産』。

 果たして何層あるかもわからないこの迷宮を踏破し、その正体不明の宝物を手に入れる。


 世界中の冒険者の目標にして、子供から大人達の間で語れる伝説にして夢。そして憧れ。

 

(ミーシャが居なかったら、俺はこの冒険を諦めないとダメだった)


 夢を諦めるなど、冒険者としての死を意味する。

 本当にミーシャには感謝しかない。

 

「オズ様、今日はそろそろ帰りましょう! 次の部屋に外へ続くポータルがあるんですよね?」


「あぁ……その通りだ」

 

 と、オズはミーシャの言葉に対し返す。

 そして、彼は彼女に手を引かれ、ポータルがある部屋へと歩き出す。


(俺のこのスキルのせいで、昔のパーティーは崩壊した。でも、もしこのスキルを手に入れなかったら)


 きっと、オズはミーシャと出会えては居ない。

 そう考えると複雑な気分だ。


(マイナススキル『腹パン』に、マイナススキル『不殺』……か)


 オズはミーシャと歩く中で、不意に思い出すのだった。

 これら二つのスキルを得た経緯を。

 そして、かつての仲間達との冒険の日々を。

 

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