第二話 腹パンでヒロイン強化できるってマ?②

「それでは、行ってまいります!」


 言って、杖をまるで剣のように持ちボスへと近づいていくミーシャ。

 次の瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 と、響く大きな音と振動。

 フロアの中央にあった石造が動き出したのだ。

 

 あれこそが十層のボス。

 ガーディアンガーゴイルだ。

 奴は瞳に赤い光を宿らせると——。


「Gyyyyyyyyyyyyyyyyaaaaaaaaaa!!」


 と、凄まじい咆哮をあげる。

 その直後。


 カッ!!


 と、ミーシャめがけて迸るのは赤い閃光。

 続けて、その光がなぞった部分は赤く爛れ、やがて弾けるように膨れ上がり——

 ダンジョン全体を揺るがすような大爆発を巻き起こす。


「っ!」


 と、オズは思わず顔の前に手をかざす。

 離れた場所にいる彼にさえ、凄まじい熱風が襲いかかったのだ。


(相変わらずなんて威力だ……っ!)


 十層のボスとはいえ、弱い敵ではない。

 むしろ、地上で言えば歴戦の猛者すらも不覚を取ればやられるレベル。


(ミーシャは、ミーシャは無事か!?)


 大丈夫なのはわかっている。

 スキル『腹パン』はパンチ力に応じて、殴った対象を超強化するスキル。

 いまのミーシャがあの程度でやられるわけはない。


 だがしかし、心配なものは心配なのだ。

 と、オズは先ほどまでミーシャがいたところへ目を凝らす。


 やがて晴れてくる爆炎により巻き上げられた粉塵。

 果たしてミーシャの姿は——。


「遅いです! オズ様に力をいただいた今のわたしには、その程度の攻撃は止まって見えます!」


 と、聞こえてくるのはミーシャの声。

 けれど、ミーシャの姿が見えない。

 彼女は一体どこに居るのか。

 その答えは簡単だ。


「このダンジョンの最奥……オズ様の目的へと向かうために、あなた様には消えてもらいます!」


 と、再び聞こえてくるミーシャの声。

 彼女が居るのはガーディアンガーゴイルの右斜め後ろ。

 ガーディアンガーゴイルはすぐさまミーシャへと振り返ろうとする気配を見せる……が。


 斬っ!


 と、ミーシャが杖を横に一閃。

 直後、ガーディアンガーゴイルの硬い胴体は斜めに滑り落ちる。


 ミーシャだ。

 ミーシャが刃もなにも付いていない、魔法用の杖でガーディアンガーゴイルを切り裂いたのだ。

 それも、刀や剣で斬るよりも鮮やかに。


 まさしく一瞬。

 瞬殺。


 ある程度予想していたとはいえ、不安要素など入る暇もなかった。

 そして当のミーシャはというと。


「オズ様〜〜〜〜!!」


 たたっとオズの方へと駆け寄ってくるミーシャ。

 彼女は杖をぽいっと放ると、彼へと抱きついてきながら言ってくるのだった。


「オズ様、オズ様!! わたし、やりました!! オズ様のおかげでボスを倒せました!」

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