第3話 駅までの道のりで
「えっ?あ、ごめんなさい。電車に乗るから匂い対策しなくちゃ、って」
そう言いながら、レジ袋をそれぞれきつく縛り上げると、トートバッグの中からもう一つの保温機能がありそうなアルミ製と見られるバッグを取り出して、中に入れた。そして再びトートバッグへと戻した。
「あー、匂い対策ね、なるほど。七つもあるもんね」
厳重に包んで入れていても、ふわっといい香が漂いそうではある。
和弥も夜の部では焼きそばもいいな、と思った。
「貸して。持ってやるよ」
彼女のトートバッグの中にはまだ何か入っていそうだった。
「あ、大丈夫です。いつもこれくらいは普通だから慣れて……あ」
和弥は近付くと、ひょいと肩からトートバッグを外して自分の肩に掛けた。
(ん?見た目より重いじゃね?普通でこれか?)
中には缶ビール六本パックと食用油が入っていたのだった。
「持ち逃げしないから安心して。駅近くまでだけど……結構重さがあるね」
「あ、有難うございます……ビールが入ってるからかな?」
彼女はいきなり身軽になって嬉しくなったのか、七つの焼きそばの話を説明し始めた。
駅までの道のりはなだらかな下り坂で、駅方面から上って来た、すれ違う人たちは浴衣や甚平を着たお祭り参加者だと見られる。人を避けながら二人は話しながら歩く。端から見ればカップルのようにも見えただろう。
彼女は七人家族なこと、焼きそばを一度に七人分を作るのは面倒なこと、食べ盛りの中学生の弟がいるので七人分では足りないこと、これなら一人前ずつ平等に行き渡ること、一緒に食べ始めることが可能なこと、麺類は大きなフライパンでも鍋でも二回に分けて作らねばならないこと。パスタも分割にして作ること。
「俺んちは五人家族だけど、二人多いだけで随分違うもんなんだね」
「そうなんですか?ウチが食欲旺盛なのかな。焼きそばだけじゃ足りないから、これからサラダ作ってトウモロコシを茹でなきゃ。父と祖父は晩酌もするからおつまみは焼きそばにして貰おうとか思ってたりして」
「焼きそばを肴に?冷や奴の方が俺はいいな……」
「あ、やっぱりダメですか?」
「トウモロコシでも……なんてね」
「焼きそばを早く食べて欲しいな、なんてね?」
「まあ、焼きそばにビールは合うからいいんじゃないですかね」
「そうですか?」
「あれ、飲まない?」
「あたしまだ未成年だから飲みません」
「あ、未成年なんだ」
「……十九ですけど、老けて見えますか?」
「いえ、さっき大学生って聞いたからそう思っただけです。一歳くらいじゃ老けてるなんて思いませんよ」
「……そうかな」
「そうそう」
そんな会話を続ける内に、駅前の交差点に着いた。
「あ、俺、こっちに用事があるからここまでだけど、いい?」
「有難うございました。久しぶりに手ぶらで歩けてラッキーでした!」
それじゃ、とお互いに一礼して、それぞれの道へと別れた。
(初対面な奴に家族構成とか個人情報なんかペラペラ話すなよな……危機感無いのか?ナンパも分かってなかったみたいだしな……ヘンな子)
(なんか最初からいきなり『ごめん、待った?』とか……お店の人って皆あんな感じなのかな?デリバリーを徒歩でするの?もし家が近かったら家まで付いて来るのかな?……ヘンなサービス。ヘンな人だったな。荷物を運んでくれたのはラッキーだったけど)
両名の第一印象はお互い『ヘンな子/人』であった。
翌月、隣町のコンビニで、バイト店員として再会を果たすことになるとはお互い夢にも思わなかった。
「あ!焼きそばの……!」
同時に口から出た言葉はさながら合言葉のようであった。
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