4-3
飛び出していった瑠璃は、森の方へ向かっているように見えた。
(ダメだ、夜の森は──朱音が……!)
また誰かが夜の森に消えてしまう──恐怖に駆られた透は、少し
「待てよ、瑠璃! 夜の森はダメだ!」
「……っ」
透の言葉に瑠璃も朱音のことを思い出したのか。
瑠璃は
「……ごめん……」
「いや、お前の気持ちもわかるから……」
朱音と一番仲の良かった瑠璃だ。
昔の朱音のような姿になっているのは、朱音のことを忘れられないからではないか。背中を向けている後ろ姿が、あの雨の日の通学路で見た彼女と重なる。
あの時も、その前からずっと、朱音の姿のままだったのかと。
瑠璃が朱音と同じような格好をしていると透が気づいたのは、初めて大学で再会した時のこと。朱音の姿に寄せているのは彼女を
だから透は今の彼女の姿が「何となく嫌だ」とか「昔の方がいい」と感じていた。しかしこうやって朱音のことを振り返ると、透はそんな自分を
喪って哀しくて、そんな風にして彼女の思い出を
「おかしいんだよ、みんな──朱音がいないと、上手くいかないんだ」
「ああ、そうだな。あの頃はワガママや不満、ケンカもあったけれど……一緒に何かやった後はいつも仲直りできたな。何か遊びとか、ゲームとか、朱音はみんなでできるものを見つけるのが上手かった。本当に……」
手先が器用で、色んなモノを上手に作っていた。
流行のモノやTVで話題になっているものにはとことん
そんな彼女がいない。
彼女が教えてくれたゲームで遊んでいるのに、みんなどこかおかしい。
「うん……今改めて再会して本当にそう思う。みんながみんな、仲が良かった訳じゃない。朱音のことを良く思っていない子もいた。それなのに
「え? 俺のことはともかく、空は仲良くしようと思っているからこのゲームを通じて同窓会を開いたんじゃないのか?」
「今になってもそう思う? だったら何故あんな賞金が必要なんだ? 麗と蓮実は空くんに取り入ろうとして、達也くんと一樹くんはどうやったらゲームに勝てるかばかり。誰も、昔のことなんて懐かしんでいない……朱音のことを、忘れて……」
「それは、俺も同じだ。朱音のことを忘れようとしていた──」
「透くんは朱音のことで後悔して苦しんで、だから忘れようとしたんだろ? そういうのとは違うんだ!」
「──ありがとう。だけどな、空からしてみればきっと同じだ。今のことに夢中で朱音のことを忘れてしまった者と、辛くて忘れようとした俺と……」
どんな理由であれ、忘れようとしたのは空にとって裏切りに違いない。
透は朱音のことを忘れようとしていた自分が許せなかった。確かに苦しんだ、けれども彼女はたくさんの良い思い出もくれたのに、忘れようとしていた。
空がこの会を開いてくれたことで、もう一度向き合うことができた。だから透は空に感謝している。だが──。
「透くんは、今の空くんを信じているんだね」
「どういう意味だ?」
「私は今の空くんを信じることができない。空くんは、きっとみんなと仲良くしたくて同窓会を開いたんじゃない。それがわかるんだ……ごめんね、透くん──この同窓会に
「何でそんなことを言うんだよ……俺、朱音のことで空にやっと謝れるって、やり直せるんだって感謝しているのに──」
本心からの透の言葉は、冷たい言葉で
「やり直しはないんだよ、透くん」
「何でそんなことを──」
「朱音は、この森に消えてしまった。誰の責任でもなく、消えてしまったんだ。その事実を変えることはできない」
「瑠璃……」
「ごめん、今日はもう
ようやく振り返った瑠璃は、子どもの時のようにいつも強がっている笑顔を浮かべていた。
「瑠璃」
「──何?」
「お前さ、何か隠していないか……?」
「どうしてそう思う?」
「今の俺じゃ、頼りにならないかもしれない。だけど俺はお前の相棒だって思っていたし、これからも思ってもらえるようになりたいと思ってる。辛くて無理だって思うなら、頼ってくれないか?」
「透くん──君は……本当に──」
瑠璃の顔から無理をしている表情は消えたが、同じぐらい痛ましい目をしている。
「みんなのことを信じ過ぎている。空くんのことも、何も言えない私のことでさえ。それはとても凄いと思うけれど、やっぱり今の君にはまだ何も言えないよ」
瑠璃の言葉に首を横に振った。
「瑠璃がそう思うのも仕方ないさ。ごめん……変な
透は瑠璃のことを名前で呼ぶことさえためらっていた。
朱音のことを思い出すのさえ怖がっていた。
瑠璃が「大丈夫だ」と言ってくれたのは、透のそんな気持ちを知った上でのこと。だから今すぐに頼ってくれなんて言うのは、あまりにも信頼性のない話だ。
だけど──。
「俺、待ってる。瑠璃が話してくれるまで、俺のことを頼ってくれるまで──」
ふたりの間に、少しの沈黙と
「ありがとう……」
瑠璃のその言葉で、透はまた少しだけ救われた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます