3-2


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「かーずーきー、お前なんかカード見つけたか?」

 かまたつは、森のみちで出会ったかずに対して質問を投げかけた。

「おかげさまで二枚目ゲット~。宝箱は三つ見つけたけど、ヒントカードは持ち帰らないで、勝負用カードは招待状で貰った一枚の他にもう一枚までしか持てない、うん、ルールはこれでばっちりだよな。今回見つけたのがヒントカード二枚に勝負カード一枚、だからおれの散策はこれで終わりにしていいかな」

「え、じゃあオレのカード探しに付き合えよ」

「いいけど、そうしたらお前が何の宝箱を開けたかわかっちゃうぞ。ヒントカードの入った宝箱ならともかく、勝負用のカードを取る時はおれが見る前に言ってくれよ」

「ってか、カードってどういう状態で宝箱に入っているんだ?」

「まずカメラみたいなのがあって、そこをのぞき込むと顔にんしようされるみたいで開くんだ。ハイテクだよなぁ。だから開けた記録も残るし、開けたやつもわかるようになっているみたいだ。それでカードのがらを見て、気に入ったら手に取ればいいみたいなアナウンスが流れるんだ。だけど手に取ったら戻すことはできないから、他の宝箱を探しに行っている間にだれかに持っていかれてもうらみっこなしってとこだな」

「へぇ……で、お前は最初に出てきた勝負用のカードをそのまま貰ってきたんだ」

「だって、誰かに持って行かれたら次にカードが見つけられるかわからないし、まだルールも良くわかんないのに、どのカードが強いなんて決められないだろ? それにどこをほっつき歩いても森だし、夕方まで部屋でゆっくりしたいインドア派だから」

「ああ、そういえば個室で何でもあるよな、一流ホテル並みに。あれって昔の合宿所があった場所をつぶして作ったんだろ? こんなところに他に人なんて来ると思えねぇんだけど」

「そうだよね、確かに。それともこの辺にこれから何か大きな観光せつでもできるのか、空くんの会社の保養所なのかなぁ。まぁ、おれたちには関係ないけどね」

「うわ、一樹って結構ドライだな。子どものころの思い出の地がー!とか言わないんだ」

「そういうけど、空くんに誘われるまで一度だってここに来たことないもん。達也はあれからこっちに来たことあった?」

「ないない。だって何もないところじゃん。あの夏合宿って、子ども会で夏休みの間に子どもをひとりにしておけないからって理由で、同じような奴らを集めての合宿だったんじゃないか。自然の中でのびのびと、って聞こえはいいけど、同じ夏休みでもきよだいプールとかディズニー連れて行ってもらっている奴とかの方がうらやましかったし」

「だよな、結局は大人の都合なんだよ」

「まぁ楽しかったこともあったけど、大人になってまでここに来たいって思ったことはないな。でさ、ここに二はく三日するだけで十万だし、上手くいきゃこのチップ1枚で百万だろ? 前からしかった車あるんだよな。前の事故ってから親も買ってくんないし」

「お前って奴は……まぁ、賞金貰えるって聞いておれも何に使おうかちょっと考えたけど。新しいPCとか買いたいぐらいかな。今やっているネトゲだっていつバージョンアップして最新スペック要求されるかわかんないし」

「だろ? だからここはひとつ協力して情報共有しねぇか? お互いに出しかないって約束で。あ、でも宝箱で見たヒントって人にいていいんだっけ?」

「アリだって言ってたじゃないか。他のプレイヤーと情報の共有は自分に不利になるけれど、したいならしても構わないってさ。とにかく何のカード持っているかは言っちゃダメってこと。それを教えたらそく失格だってさ」

「なるほどね……あ、あれ、とおるじゃねぇか?」

「あ、本当だ。おーい、透く~ん!」

 少し離れた場所から名前を呼ばれて、透はふたりの気配に気づく。

 達也と一樹に呼ばれ、透はふたりの元へやってきた。

「達也に一樹、二人そろってたんさく中か。宝箱は見つかったか?」

「うんにゃ。オレ、一個も見つけられねーし」

「へへ、おれは三つ見つけたぜ。透くんは?」

「……十個ぐらい、かな」

「えっ!?」

「マジで!?」

 達也と一樹が目をかがやかせながら透の言葉にいつく。ふたりの勢いに、透はじやつかん引いていた。

「あ、うん……だけどヒントカードばっかりだったし、他のカードはどれ持っていくかなやんで一枚貰ってきたけど……どうしたんだ、ふたりとも変な顔して」

「リーダー!!」

「さすがおれたちのリーダー、ヒントくれよリーダー!!」

 透は内心「変わらないな」と呆れ半分、なつかしさ半分の気持ちをいだいた。子どもの頃も達也たちは何か困り事があれば調子の良いことを言って透に頼っていた。リーダーをしていた分には指示が出しやすくて良かったが、何かと透の目をぬすんではイタズラをしていたふたり。いんそつの大人にドッキリを仕掛けようと、この辺りの道の草を結んでわなを作っていたこともあった。透が事前に見つけて止めたが、その時も彼らは大したイタズラじゃないと思っていた。

 そんな過去を思い出しながら透は苦笑いをかべた。

「都合が良い時だけリーダーあつかいするなって。でも何でそんな見つからないんだ? そこらじゅうにあるじゃないか」

 バカにしたつもりではなく、本当に思わず昔のリーダーだった頃に戻った口調でふたりを引きはがす。ヒントは別に教えてもいいとは思った。

 ヒントを教え合うこと自体はルールはんではない。勝負用のカードを明かすのが違反なのだ。それにしてもひとつも見つけられない達也に、三つ発見したことで得意になっている一樹。

 あまりにもあっさりとたくさんの宝箱を見つけた透。

 ぐうぜんにしてはこの差は一体何なのか?

「リーダーはどこ歩いてそんな見つけたんだ?」

「この小路沿いにぐるっとS字型で回って、ジグザグの大きな道があるだろ? あそこを回ったぐらいだけど」

 特にさくがあって選んだ道ではなかった。透にしてみれば、あの夏合宿の時にそのルートを何度も通ったというおくから、同じ場所を歩いただけ。それにしても……。

(何度も、通った……? あ──)

 閉ざされていた記憶のとびらが開く。そう、彼はこのルートは嫌というほど歩いた。

 理由は『安全のため』『準備のため』。その時、ひとりじゃなかった。

(どういうことだ……?)

 それは偶然じゃない。透がとあることに気づいた時、一樹が「どうしたんだ?」とげんな顔をしてたずねてくる。

 だが、透は心がごちゃごちゃしていて、上手く説明できない。

 偶然なのか本当にその通りなのか、もし必然だとしたら……少し背筋が寒くなった。

「……いや、たぶん気のせいだと思う」

 偶然ではないのかもしれないが、今はそう言うしかなかった。ともあれ、透からヒントを受け取ったふたりは、その道を行くことにした。

 そんなふたりを見送って、透は思わず独り言をつぶやく。


「あれ、きもだめしのルートだ……」


 それは透があかいつしよに歩いた道。みんなをおどろかせようとして、いつしようけんめい仕掛けを用意した道。

 そして──十年前、朱音が消えてしまった道でもあった。


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