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スタッフに案内され、コテージの前に四人の参加者が到着した。男女それぞれ二名ずつ。全員に見覚えがあった。というのも、子ども夏合宿メンバーは引率の保護者を含めて全員で三十名ほどだったが、子どもたちは班分けされていて、細かくグループ分けするときは四人チーム、少し大勢で行動する時は八人班という形で分けられていた。
四人チームの時、透は瑠璃と空、そして朱音がメンバーだった。八人班の時は別の四人と組む。その八人班のグループ仲間である四名が、やってきたのだ。
「あれ、もしかして透!? また背が高くなってんじゃん! 昔から大きかったけど、イイ男になったんじゃない?」
「もう
「オッス、元気ィ?」
「久しぶり~。透くんも来たんだね。チャットには全然来なかったから、来るかどうかわからなかったよ。本当に、十年ぶりだよなぁ」
「あ、ああ。みんな久しぶり」
大人にはなったけれど、子どもの頃の
「何よテンション低いじゃん。これからゲームするっていうのに。もしかして参加者が減れば賞金
「あ、違うよ。ちょっとバス
「だよなぁ。あの『みんな参加しろよ』が
昔のことを言われ、ドキリとする。
透はみんなでわいわいとやるのが好きだった。引っ
その最たる対象が引っ込み思案で大人しく、体の弱かった空だった。あまりにも構って面倒をみていたせいか、その様子を周りのみんなは『透は空の母親かよ!』とツッコミを入れられたこともあった。
きっと彼らはその頃の透と変わっていないと思っているのだろう。
「そういえば空くんは? あとはこのメンバーだと瑠璃ちゃん?」
「あ、空は何か準備あるんだって。あと、み……瑠璃は、女性用のコテージに荷物置きに行っているから」
一瞬戸惑ったが、みんなが当時のままの下の名前で呼んでいるのに、ここで
本人の前でも、今さらだけど〝瑠璃〟と呼べばいい。
そんな話をしている間に再び空がみんなの前に現れて、スタッフに指示を出してコテージへ案内した。ゲームの性質上他のプレイヤーと情報
(昔はこんな
子ども夏合宿の時は、大勢が一度に
このコテージはあの合宿所と同じ場所に建っている。おそらく団体客ではなく、個人客用に建て直したのだろう。今はひとりでいる時間がほしい透にとってはありがたいことだった。
こうして全員が揃ってから三十分後……ゲームの開始が告げられた。
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「この
「は~い」
おどけた様子で返事する面々。
その様子に相変わらず空はにこにこと笑顔を
「今回のゲームに使うカードはこれ」
そう言って、空はトランプ大のカードの背表紙を見せた。それは参加者に招待状と共に送られてきたカードと同じものだった。
「それって……」
「そう、今回のゲームのカードを一枚ずつ先に送ったんだ。このカードゲームは昔、あの夏合宿で一度だけ遊んだことがあるはずだよ。ゲーム
その場にいる全員が
「百万円──」
具体的で、しかも高額な金額に一同から
空が新聞に
このゲームも新しい企画のためのサンプリングとして、会社からも資金が出ているという。達也たちは十年前の夏合宿で彼と共に
「ただし、不正な取引を発見した場合にはその場で失格となり、それ以降のゲームへの参加も禁止となるから注意してね。先ほども説明したけれど、不正防止のために森の中のあらゆる場所と、コテージには監視カメラとマイクが設置してある。多少のプライバシーを
小さな笑いが生まれる。
昔はそんな
「ま、それはそれとして、ルールとしてもこちらで必ずチップの数は
「不正? んなことしないさ。なぁ?」
空の発言に、達也が周囲に同意を求めてきた。その言葉に空は少しだけ困った笑顔を浮かべた。
「ああ、ごめんね、君たちを信用していない訳じゃないんだ。だけどちゃんと説明しないと社から怒られるから、もう少しだけ
空の言葉で私語が
「このゲームはとあるオールドカードゲームを元にしている。そしてこのゲームの最大の
①各参加者は散策タイムにおいて森の中に隠された宝箱から「勝負用カード」を入手する。このカードは、招待状と共に送られてきたカードを含めて二枚まで所有することができる。
つまり、カードの入っている宝箱をいくつ見つけても手に入れられるカードは一枚だけ。さらに最初に送られてきたカードはもちろん、宝箱から入手したカードを他の宝箱の中のカードと交換してはならない。また宝箱の中にはゲームのヒントとなる【ヒントカード】が入っている場合もある。こちらは持ち帰らず、見たらそのままにしておくこと。
②プレイヤー同士でのカード交換は『カードジャッジ』の前に行う。
③散策時間は朝九時から十七時半まで。十八時にこの広場に集まり、それぞれチップを
④もし【フクロウ】のカードを所有している場合、他のメンバーも含めてカード交換の前に『カードジャッジ』を要求する権利がある。
「このゲームではチップがなくなった時点で失格。最初に5枚のチップを配布するから、最終日まで頑張ってチップを増やしながらゲームに参加してほしい」
空の説明にみんなが顔を見合わせる。
「……何か、だんだん思い出してきたような気がする。うん、一回だけやったよね、これ?」
「でもどのカードが強いんだっけ? 何か数字以外の絵札の強さがあったと思うけど……あと何か
お互いにあいまいな
「今回はわかりやすい数字のカードは使わないよ。絵札だけでの勝負になるんだ。もちろん、絵札には数字が入っていない。それと本来はカードを引いた時点で失格になったり、最後まで持っていると失格になるカードもあるけれど、それじゃカード散策の楽しみがなくなるから、所有している時点での失格のルールはないよ。うん、大ヒントだね。他の細かいルールは従来通り。みんながどれだけ覚えているか、楽しみだねぇ~」
「ええ、空くん意地悪しないでカードの強さとか教えてよ! そんなの覚えている人が有利になるに決まってるじゃん!」
麗が文句をつける。
「そりゃそうだよ。覚えている人に有利なように設定しているんだから」
「何で!?」
「だって、僕にとってあの夏は忘れられないぐらい大切な思い出なんだ。だから他のみんなも大事に、何一つ忘れないでいようとしてくれた人に、このゲームを勝たせてあげたいんだ。うん、僕のえこひいきだよ」
「何それ……もう、ちょっと……」
「まぁ、森の中で見つけられるヒントカードには、カードの強さのヒントも入っているから、今自分が持っているカードの強さを推理するのに役立ててみて。それから最終日にはもっと
思い出探しだと、空は言いながらその他の注意
「それから、ここは特殊な電波しか通じていないから、みんなの持っている携帯やモバイル関係は使えないよ。だからズルして
そこまで説明したところで、一樹がとあることに気づいた。
「あれ……? じゃあこのカードを
「そうだね。その時点ではこちらでは制限できなかったし。もっとも、このカードを招待状と一緒に送ったけれど、ゲームに使うとは明言していなかったからね。まぁ、とりあえずそのカードはあとでカードジャッジの時に話す予定だったけれど、簡単に説明するね。森で見つけたカードは他の人と交換できて、勝負に使った後は
つまり、森で他のカードを見つけなければ最初に空から配られたカードで勝負しなければならない。そしてそのカードの強さは思い出すか、ヒントを見つけるしかない。
どれもこれも手
記憶か足か、どちらかでこのゲームの鍵を探らなければならないのだろう。
「あ、それからカードの強さについて思い出したりヒントを見つけたら、僕からはあまりお
にこにこと
みんは「ひとりで面白がって、ずるいぞー!」「高みの見物でいいなぁ」「空くん、お願いだからもっとヒント」とか、それぞれに意見や要望を口にしていた。
それに対して空は「これが主催者の特権だからね」と笑ってスルーしていた。
だが。
「──空くん、ひとつ聞いていいか?」
「何かな? 基本的に質問に答えるか答えないかは、僕の裁量に任されているからね?」
「そう。私からの質問は
問いかけたのは瑠璃だった。
彼女の質問に対し、空は少し困ったような表情を浮かべたが、すぐに先ほどまでの人当たりの
「いい質問だね。そして、僕を一番
ボーナスという言葉に一同がさらに沸き立った。今まで提示された賞金だけでもかなりの額になるのに、それ以上があるのか、と。
「何だか賞金総額が凄いことになるんじゃないのか?」
「そうだね。コンピューターでシミュレートした結果、もしここにいる全員のチップを総取りしてさらにボーナスも付けたら、賞金は五千万円を
その空気を十分に楽しんだのか、仕掛け人である空が声を高らかに宣言した。
「さぁ、フォレストACの新企画ゲーム『カンズ』の始まりだ。みんな、この森を
みんながそれぞれ森の中へと散って行った。
ひとりで走り出すもの、おしゃべりをしながら誰かと一緒に歩き出す者……透はどうするべきかわからず、それでも他のみんなと違う行動をするのが
だが、彼らの中で森の方をじっと見つめながらスタート地点を出発しない者がいた。
(あれは──瑠璃……)
空と何か個人的に話をするのだろうか。
先ほど自分は少しだけ朱音の話をしたから、瑠璃にもそうやって話したいことがあるのかもしれない。だとすれば、この場にいるべきではないだろう──。
透は気づかなかったふりをして、森の方へ足を進めた。
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