第一章 『家』あなたは私を通りすぎる
1-1
空気に水気が
六月の
それでも公共の
「もうすぐ夏か……」
ふと
早く夏が来て、そして夏が終わればいい。
いつだって夏が来るのを
──あの時から、夏が
大学へ向かうために駅前を急ぎ足で歩く青年──
どちらかと言えば背が高く、下半身のコンパスも広めの青年は、器用に人の流れを読んですいすいと目的の場所に向かって歩く。
まるで透の足もとだけ別の時間が流れているように、
ある意味、彼が今の時間を
節電と言いながらも流れ落ちた
まもなく目的の駅。降りる
『なお、
(
大学教授だと言っていたが、少なくとも透が
一体、どこで聞いたことのあった名前なのか。
多少気にはなったものの、大学
今日は一日中降ったりやんだりの天候になると、予報では言っていた。
(帰りにはやんでいるといいけどな……)
ぼんやりとそんなことを考えながら、歩き出す。
その時五メートルほど前を、友だちと
彼女は自分が後ろにいることは気づいていないだろう。それでも視線が合わないように、こちらに気づかないように、注意深く、そして自然に
──それでいい。
彼女とこの先、話すことも友人として接することもないと、透はその時思っていた。
透はとある過去から、彼女だけでなく、周囲の人との深い付き合いを
(誰かと一緒に行動するのは、もうごめんだ)
先ほどかつての〝仲間〟の少女が友だちと仲良く歩く姿を後ろから
今現在
いつもの毎日──そして、それがいつもと同じように過ぎると、透は思っていた。
黙々と作業を続けていた透は軽く
ふと、表紙に
フクロウは知恵の
知らなくて、教えてくれた人がいた……。
(──フクロウはね……)
透はフクロウの絵を裏返しにして、作業の手を早めた。
**********
十六時半。
帰宅する
この日の夕刊の一面は新法案についての話題。そしてソーシャルゲーム業界のとある
──そして。
「っと、セーフ!」
新聞と広告の
(
今時の
『藤家 透 様』と、ワープロ印字された文字が表面に書かれている。
「俺に手紙なんて……誰だろ?」
とりあえずまた落としそうになって濡らすのも困るので、透は家の中に入った。
新聞をテーブルの上に放り投げると、手紙を裏返してみる。そこに差出人の名はなかった。少し変だな、と思いながらもあまり気に
中から出てきて最初に目に止まったのは、トランプぐらいの大きさのカード。
それにはピエロのような絵が描かれており、絵の下には『私は最も弱く、最も強い』という文章が書かれていた。
(どこかで見たことあるような……気のせいかな?)
封筒の中身を
『藤家 透 様
この手紙が届いた時、きっと奇妙な気持ちになっているでしょう。
手紙の最後に差出人である
十年前、ほんの数週間ですが一緒に過ごした仲間──あの日を覚えていますか?
現在僕はとあるエンターテインメント制作会社を経営しています。
今回、豊かな自然
もしこの手紙を
そこに書いてあるホームページアドレス(雑誌を入手しなくてもこの手紙の下記にアドレスが記載してあるのでご安心を)にログインして、トップページにあるユーザー登録ページからこの手紙の最後に書いてあるパスワードを入力してログインして下さい。
ログイン後に参加者専用の
つまり、ちゃんとしたスポンサードのあるプロジェクトの
もちろん、個人的に同窓会としてみんなに会えるのをとても楽しみにしているので、参加してくれることを願ってやみません。
ゲームに参加してもらえれば、サンプリングの
そしてゲームで、好成績を残した参加者には
ただし、
ゲームに不正があった場合には賞金はもちろん、謝礼金の減額にも
またその間は
気になるゲームの賞金は、当日のお楽しみです。
ちょっとだけ明かすなら……少なくとも勝者は百万円以上になるのは約束します。だから、本気でゲームに
開催場所はあの十年前の森──旅券も一緒に送付しているので、もし参加できない場合は僕に一報して、お手数ですが返信用封筒を改めて送るので、旅券や同封したカードの返送をお願いします。
また希望者がいる場合には自宅から会場までの
フォレストAC CEO 夕月
手紙はそこまでで、もう一枚の紙にゲーム参加者への注意事項や
宛名──夕月空、その名前に覚えがあった。
「夕月……あ──」
透はTVのスイッチを入れ、取り入れたばかりの夕刊の記事も見る。そこには最近TVでCMをやっているゲーム会社の名前と、夕月空の名前と写真が出ていた。
確かに、その顔を知っている。あの手紙が本当に彼から来たのか……もしかして自分と彼との過去を知っている第三者の
とにかく情報を求め、TV
だが時間的に天気予報やバラエティ番組に切り替わっており、ニュースが始まるのはもっと
手紙を
ウェブの
『夕月 空』
いくつもの記事が出てきた。
検索ワードで彼の名前と共に出てきた夕月空の
空がこの業界に入ってから四年目らしい。十八の頃から空はこんな世界的に有名なクリエーターとして
「あいつ、こんなに
空は子どもの頃から並はずれた知能を有していたが、身体が弱く、世間知らずなところがあって、いつも透のことを「リーダー」として
透が感じている胸の痛みはたぶん、
自分をずっと頼りにしてきた空が、ただの
少し
だが、そんな書き込みの他に、つい最近
『ゲームクリエーター、夕月空氏の母でもあり、T大学教授の夕月聡子さんが○日の夜、大学の研究室を出てから行方がわからなくなっている。警察は事件と事故両方の可能性で──』
「……そう、か──」
偶然なのか、十年ぶりのコンタクトがなければ思い出したりもしなかっただろう。消印を見ると、少なくともこの手紙を出した後に空の母親は行方不明になったのだ。
ある意味、十年ぶりの同窓会的な
不意に今日の登校時に『彼女』を見かけたことも頭の中で繫がり〝偶然〟と呼ぶにはあまりにも心が落ち着かない。とにかく情報を──。
手紙に書かれていたアドレスを打ち込む。とても短いドメインだったので、あっさりとそのページに
自動的に最新作のプロモーション・ムービーが再生され、思わず目を見張る。音楽も映像も、そしてナレーションも、
空の上に城があり、海の底に王国があり、森の中に
子どもの頃に夢を見たような世界が、そのまま形になった──。
あの頃の自分は
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