第31話 レストラン

(英二くんと一緒にいられれば、どこも背景みたいなものだけど)

「そうだな。お化けのクオリティも高けりゃ雰囲気もなかなか良い」

「ああ、そうだな」

(どんなお化けがいたのか分かんねえや。アタシは英二しか見てねえしよ。でも、これだけ英二とくっついていられるなら大満足だ)

「よし、じゃあそろそろ出ようか?」

「うん」

(賛成)

「おう」

(英二の命令は絶対だ)


 出口近くは廃病院をイメージした作りになっていて、手術台やレントゲン写真などが置かれており、まさに心霊スポットといった様相だった。


「……こわいよー」

(英二くんに抱きつけそうなギミックがいっぱい……)

「頼むぜ……マブダチ」

(ぐへへ、もっと大義名分が作れそうだ)


 のあさんと美咲は怯えた表情でオレの腕にしがみつく。廃病院からはゾンビ化した設定の医師たちが襲いかかってくる。

 まあ実際には噛んで来ないけど、メイクのリアルさなど、迫真の演技で驚かせてくれる。

 しかしながら背丈がそこそこ高い二人の美少女に挟まれている影響により、オレの視界は狭まってしまっているため、襲ってくる医者よりも腕に絡みついている二人に意識を奪われてしまっていた。


「うわぁ!」

「きゃあっ!」

(英二くん、わたしを守って!)

(英二、アタシだけを見ろ!)

「うおっ!?」


 彼女たちは鬼気迫る形相でオレを引っ張り合い、水面下で壮絶な争いを繰り広げていた。オレはその迫力に気圧され、何も言えずにいる。


「あ、あの……」


 そこへ現れたのはナース服を着た看護師だった。オレが声をかけると彼女は笑顔を浮かべてこちらへ近づいてきた。


「どうしました? どこか具合が悪いんですか?」


 彼女は美人なものの、どこか胡散臭く見える。それは顔に浮かべている笑みに感情が篭っておらず、薄っぺらいからだ。心を読む限りではどう考えてもお化け役のスタッフである。


「いや、大丈夫です」

「本当ですか? 遠慮せずに言ってくださいね」

「いえ、本当に平気なんで」

「ふふっ、そう言わずに……」

(このタイミングで驚かせちゃお)


 そう言うと、彼女はゾンビとしての正体を表し、ドロドロに溶解した緑色の顔を近づけてきた。


「うぎゃぁ!」


 オレが驚きの声を上げると、周りのお化けたちも反応し、一斉に襲いかかってきた。


「きゃあっ!!」

(あ、これチャンス)

「うわっ!」

(英二に守ってもらうぜ。アタシだって女の子なんだから可愛いところを見せたい気持ちがあんだよ)


 のあさんと美咲は咄嵯にオレの背後に回り込み、抱きついてくる。背後から伝わってくる柔らかな感触にドキドキしていると、今度は正面からお化けが迫ってきていた。


「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いてくれ!」


 オレは慌てて叫ぶと、お化けたちが急に日和る。


(なんだこの子たち)

(目が怖い)

(ひぃ!)


 お化けを演じるスタッフたちの視線は一様にオレに同行するのあさんたちに向いており、その目には恐怖の色が浮かんでいた。

 のあさんと美咲はスタッフたちに向かって冷たい視線を送っており、その威圧に負けたお化けたちはすごすごと退散していく。


「もう、行こうぜ」

「うん」

(ああ、英二くんの背中が暖かい)

(こいつは渡さねえぞ)


 オレたちがお化け屋敷を出る頃には、オレの腕は締められ過ぎて少しばかり痺れており、そのせいなのか何だか全身が熱っぽくなっていた。


「ふう、怖かったねー」


 お化けなんかよりキミたちの方がずっと怖いよ。


「ああ、マジでビビッたな」


 のあさんと美咲は建前だけ怖がっており、その表情には実際のところ余裕すら感じられる。何回でもおかわりしそうな雰囲気だ。


「そろそろお昼ご飯にしようよ」

「そうだな」

「どこで食べる?」

「どこでもいいよ」

(英二くんと一緒にいられるなら)

(英二の好物をアタシが食べる。英二の好みをアタシの体に溶かし込む。英二とアタシが一体化する……ぐへへ)


 昼食を食べる場所を探すべく館内マップを見ると、レストランが複数あることに気付く。


「ここで食べようぜ」

「うん」

「分かった」


 オレはイタリアン料理のお店を指す。二人とも不自然なまでの即答で了承し、そのまま店内へと入っていく。二人して案内された席に座ったオレの隣に無理やり腰を掛け、オレに肩を寄せ合ってメニュー表を見る。

 そんな様子に周囲の客は呆気に取られていたが、のあさんと美咲が睨むとみんな逃げていった。


「どのメニューにするかな」


 メニュー表を見る限りでは、どれも美味しそうだ。オレは適当にピザやパスタなどの軽食を選んでいく。

 一方、二人は真剣な表情を浮かべながら選んでおり、オレのことをちらりと見つめてくる。


(英二くんは何が好きなんだろう?)

(アタシはこのステーキが好きだ)

(わたしはパスタにしようっと)


 二人とも自分の好きなものを選び終えると、ウェイトレスを呼び出して注文を済ませる。


「お待たせしました」


 しばらくして運ばれてきたのはオレが頼んだピザ、パスタにサラダやドリンクのセットで、隣ではのあさんと美咲が頼んだパスタとハンバーグのセットが並べられていた。


「いただきます」

「「いただきます」」


 食事中、オレは二人のことをチラ見していた。やっぱり可愛いなぁ。それにしてものあさんの胸が凄いことになってる。彼女の着ている服はノースリーブなので、谷間が見えてしまっているのだ。横目に思いっきり映っている。しかも、それを隠そうともしない。むしろ見せつけてくる。


「あんっ」

(どう? わたしのおっぱい)

(英二に見せつけてやる)

「ん? どうかした?」

「いや、何でもない」

(英二くんの視線を感じる。見られてる)

(英二の奴、アタシの体に見惚れてんじゃねえのか? のあの方が胸でけえっからってチラチラ見やがって。まあ、アタシの魅力にも抗えるはずがないけどな)

「のあさんってさ、意外と大食いなんだね」

「そうだよ。いっぱい食べないと大きくなれないから」

(英二くんに大きいって言われた嬉しい嬉しい)

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