第32話 レストラン その2
のあさんは胸を揺らしながら、美味しそうにパスタを大量に口に入れては頬張っている。美咲の方は逆に小食らしく、小さな口で少しずつパスタを食べていた。
ピザもかなり美味しく、チーズやプルコギ味などバラエティにも富んでおり、
様々な味わいを楽しむことができた。
オレの好みはマルゲリータであり、チーズとトマトソースのベストマッチな組み合わせに加え、バジルの風味や香りが
食欲を刺激してくれる。
オレがそのピザを食べるたび、オレを愛しまくっているのあさんたちもそればかりを注視しており、その度に視線がぶつかる。
「英二くん、代わりにわたしの分もあげる」
「英二、アタシのも食べていいぜ」
「ありがとう」
(英二くんの舌の上で溶けたい……)
(英二、早くこっちのパスタを食ってくれ! 英二とあらゆることで分かり合いたいんだ!)
のあさんたちは目から光を失い、ニヤニヤした表情でオレのマルゲリータをやけにゆっくりと味わいながら、オレにパスタを巻いたフォークを差し出してくる。
(英二くんが使ったフォーク)
(英二が舐めたパスタ)
「ありがとう」
(英二くんと間接キス)
(アタシの唾液がついたパスタを英二が食べる)
「……」
(英二くんの唾液のついたピザ)
(英二くんの唾)
彼女の心の声は、ヤンデレらしい不気味で愛に歪んだものばかりであり、その思考を察してしまったオレは背筋が凍るような気持ちになってしまう。
そんな考えを表に出せば怪しまれるし、何より危険因子と思われて監禁されてしまうかもしれないので、オレは笑顔で彼女からの施しを受ける。
「美味しいよ」
「良かった」
(英二くんに褒められた)
「もっと食べる?」
「うん」
「じゃあ、はい」
のあさんはオレにわざわざスプーンを持って行って食べさせるという、彼女のファンから見たら羨ましすぎるであろう行為までしてきた。
「おいしい?」
「ああ」
(英二くんとわたしが一体化していく)
「アタシのハンバーグも食うか?」
「うん」
美咲はのあさんに負けじとオレに自分の肉汁たっぷりのステーキを差し出す。これもまたのあさんに負けず劣らずの可愛らしさであり、具体的に言わせてもらうと、狙って作ったあざとさなどからはかけ離れた、天然ものの可愛さである。そんな美少女たちがオレに食べさせてくれていると思うと、もうそれだけで嬉しさが込み上げてくる。
「どうだ? 美味いか?」
「うまい!」
(やった! アタシが食べたハンバーグが英二の胃袋にも入ったぞ!)
のあさんの可愛らしさの強みは見た目通りの美しい外見で黙らせる点、一方で美咲の強みはそのボーイッシュな雰囲気と強気な性格の裏に潜む可愛い物好きという特大のギャップによる魅力だと感じる。
この二人と一緒に食事をしているだけで幸せすぎてどうにかなりそうだ。変態的な思考にさえ目を瞑れば美少女ハーレムだからね。エキスとか涎云々は気にせず、楽しめば勝ちである。
(英二くんと食事してる時が一番楽しい。英二くん大好き、結婚したい)
(こんな時間がずっと続けば良いのになぁ)
「あ、あの、誰か反対側の席に座らないのですか?」
近くを通り掛かった店員さんの一人が、向かい側の席を空けて片側の席に固まっているオレたちに疑問の声を漏らす。
(英二くんとの時間を邪魔された)
(せっかく英二とラブラブだったのに)
「あ、すみません。今どきますね」
オレは慌てて彼女たちから離れ、空いている反対側の席へと移り、バランスを整える。店員は眉を顰めながらその場を去っていき、再びオレたちの方へやって来ることはなかった。
「ごめんな」
「大丈夫だ。気にしてねえよ」
(英二と二人で食事したかっただけなのに、空気の読めない女だ)
「英二くん、気を取り直してパスタ食べよ」
(ああいう奴がわたしと英二くんのラブラブ生活を邪魔するんだろうな。あいつがいなければもっと英二くんとイチャイチャできるのに……)
のあさんは少し機嫌を損ねた様子を見せながらも、パスタを巻いたフォークを差し出してくる。オレはそれを口に含む。
のあさんが頼んだパスタはイカスミパスタで、麺が真っ黒に染まっている。しかし、その味はとても美味しく、麺を噛むたびにイカ墨の濃厚な旨みが口の中に広がっていく。
一方、美咲が頼んだカルボナーラは卵黄ソースが絡んでいて、まろやかな味わいとなっている。
「パスタ美味いな」
「だろう? ここの店はどれもうめえから、色んなものを注文するのがおすすめなんだぜ?」
「そうなのか。確かに、これだけ種類があれば飽きずに食べられそうだよな」
(うふふ……英二くんと会話できた)
(アタシの食べかけの料理を食べてもらえるのは嬉しいけど、やっぱりちょっと恥ずかしいな)
のあさんは頬を赤らめて微笑んでおり、美咲の方も照れくさそうな表情を浮かべている。
「それにしても、みんなよく食べるんだな……」
オレは改めて彼女たちの食欲に感心してしまう。
「だって、美味しいもん。好きな人と一緒なら尚更だよ」
「おう。アタシたちはこういう楽しい時はいくらでも食べられるからな」
「そうか……。ところで、その、オレはいつまでここに居ればいいんだ?」
またもや二人に挟まれてしまったオレは気になっていたことを訊ねる。すると、二人は目を合わせてニヤリとした笑みを見せる。
(そろそろいいか)
(英二くんともっと仲良くなるチャンス)
「英二くん、こっち向いて」
「英二、ほらよ」
「なんだよ」
オレが振り向くと、そこには二人の顔が迫っていた。彼女たちの陶器のような美しい体はオレの体に熱を与え、柔らかさと弾力を感じさせる剥き出しの肌はオレの心をときめかせる。
そして、彼女たちの肌が重なり合うと、オレの脳裏には電撃のようなものが流れ込んでくる。キスなどの生々しいものが無くとも、彼女たちのエキスがオレの体に流れ込んでいるという事実だけでも、無意識のうちに興奮が高まっていく。
(まだ意識させるだけで十分か。キスはまだまだ早えよな。まあ、焦らずじっくりやるしかねえ)
(もう少し英二くんにわたしのエキスを馴染ませないと)
二人が少し離れるとオレは呆然としながらその場に座り込み、呼吸を整えて理性を保つことに専念する。
「どうしたんだ?」
「大丈夫だ、なんでもねえよ」
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