参話目

『次のニュースです』


 テレビの音に驚いたアヤカシ達は「なんだテレビか」とか「驚かせやがって」とか言いながら天井裏でこそこそしている。

 秋彩は昔より旨くなった美冬の手料理を味わいながら、そんな声に耳を傾けていた。


『―――さんは自宅で首を絞められて殺害されていて警察は―――』


 ……。


「物騒だねえ」


「秋彩さん、この人…」


「ん?」


 テレビをつけてと言っておきながら、見もせず聞き流していた秋彩は美冬の少し怯えた声に顔を上げた。


「この人、さっき話してた紫藤さんじゃ…」


「……」


 そう言われて見た画面には友人と共に出かけた先での写真が映し出されていた。

 彼女以外の顔にはモザイクがかけられていたが、それは確かに先日秋彩に詰め寄った紫藤 美和だった。


「……ああ、そうか…。死んでしまったのかい」


「…秋彩さん、」


 先程話題に出していた人物なだけに、他人事に考えられない美冬は、やけに冷静な顔をした秋彩を窺う。


「……。美冬くん」


「っはい」


「明日は秦郡路じんぐんじの所で会合だったね?」


「え、あ…はい」


「…じゃあそれを予定通りに。…あと。

 西の門は閉めておいて」


「は、はい…」


 画面を見つめながら秋彩は美冬に指示を出した。

 美冬はてっきり紫藤について何か言うと思っていたので、面を食らったような顔になって話半分に返事をした。


 それに、西の門。

 秋彩に用のあるアヤカシ達や、あちら側の事情をよく知る陰陽師が訪ねてくる神社の裏にある門だ。

 アヤカシ達は基本自由だからと、四六時中開けているその門を明日に限って閉めなければならない理由…。

 美冬は理解できないながらも、秋彩の指示に頷いた。


「…何だかね、嫌な予感がするんだ」


「え…?」


 そう言った秋彩が見つめる画面では女性のアナウンサーが別のニュースを読み上げていた。



 次の日。

 見た事も話した事もある人物の死は美冬の心を気落ちさせたけれど、今日に限って秋彩がアレやコレやと仕事を頼んできたので気を紛らわすのに丁度良かった。


 そんな美冬が境内の掃除をしていた時だ。

 箒に掃かれるのが気持ちいいとまとわりつくアヤカシ達もろとも塵を門外へ払っていた時。


 黒いスーツ姿の男二人が美冬に会釈して、懐から何かを取りだした。



 書斎にて。

 乱暴に扱えば壊れてしまいそうな書物を読んでいた秋彩は、誰かがドタバタと廊下を走ってこちらへ向かってくる音に顔を上げた。


「秋彩さんっ!」


「何だい、美冬君。騒々しいよ」


 ノックもなしに書斎へ入ってきた美冬に秋彩は呆れた視線を向ける。いつもの冷静な美冬には程遠い、何か恐ろしいものを見たような顔をしていた。


「今、っいまっ…、門の所に…!」


「……?」


 「とにかく早く来てください!」と秋彩を引っ張る形で美冬は門へ急いだ。秋彩は疑問を感じながらも周りを揺蕩うアヤカシが警戒していない様子に危ないものでは無いと考えていた。

 美冬に半ば強引に連れられた神社の門の前。

 そこには先程の黒スーツの男達が立っていた。


「…なるほど。美冬君が慌てる訳だ」


 男達が名乗る前に秋彩はその正体に合点がいって、くすりと唇に笑みを乗せぬように笑った。


「貴方がこの神社の神主さんで?」

「我々こういう者でして」


 そう言って男達が取り出したのは警察手帳だった。

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