とぷん

 畳の上に水溜りができていた。

 硝子窓の結露なんて生やさしいものではないし、水漏れをしていないのは確認済みだ。

 水溜りの大きさは大したものではない。精々、成人男性の指先程度。

 ここでは水の量が問題なのではない。

 場所だ。

 部屋の真ん中だから結露の線は最初に消える。直上には傘のついたライトがある。水漏れしようにも「できない場所」だ。窓も開いていないから、雨粒が飛んできたわけでもない。

 そしてなにより、一瞬前まで布団があったところにその水滴は出現した。


 ままある。五月はそういう季節だ。

 畳が傷まないほどの量なので、無視している。

 ただ、発生するときに必ず、とぷん、と水が水に飛び込むような音がする。

 私の寝室は、水面なのかもしれない。誰かにとっては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る