上に参ります
まぁ、タイトルでお察しの内容ではあるのだけれど。
ある日、とあるマンションにお邪魔した帰りのこと。
夕日が射し込み、歴史を積み重ねた手すりは随分と草臥れて、足元も汚れている。そんなに上等なマンションではない。
とはいえ、自分もそんなに上等と言えるような暮らしをしているわけではないので余計なお世話ではある。あるのだけれど、そう言いたくもなる。
とろりとした茜色に染まった廊下。周りの民家にもちらりほらりと明かりが灯り、そろそろ昼と夜が交代する。そんな一瞬の時間の中私は、マンションの一番下の階層からそろりと登ってくるエレベーターをゆっくりと待つ。
手持ち無沙汰だったが、無言で待つ。口を開いても良いことはない。
しばし後、ちん、と小さく音がなり、エレベーターがこう言った。
「上へ参ります」
ここは、最上階だが。
屋上には行けるのだろうか。行ってみても良いことはない。
鉄錆の赤い臭いが漂う。
私は諦めて、マンションの階段にゆっくり向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます