ぐるり

 買い物をしていた時のことだ。


 常日頃から異様な臭いには辟易しているので、それが一際おかしなことである感覚はとうの昔に麻痺していた。それを実感した話だ。


 臭いの元はスーパー。獣というよりも溝臭い。まぁ、平常ならあってはならないのだろう、自分の体質を鑑みるとそこまで警戒すべきでなく、寧ろ一々気にしていたら気疲れする。そう思って自動扉を潜った。

 買い物は常日頃から同じ店に行っていた。他の店が遠いのだ。態々歩こうと思うと一駅まるごと、なんてことになる。面倒くさい。

 故に、そのまま獣臭いスーパーに入ったのだ。ある意味、自業自得とも言える。


 適当に足りない食料品を買い漁り、さて会計でもと思って陳列棚の間に立った時。強烈な臭いが鼻を刺した。なんだ、出てくるのか。そう思いもしたが無視することに決めていた。相手をするだけ無駄だ。


 そいつは棚の下からぞろりと顔を覗かせた。真っ黒で毛むくじゃら。よく見かけるパターンだ。元は恐らく何かしらの獣なのかもしれないが、未だにどんな理由でああなるのかは判らない。だが、とにかく類似例が多い。


 放っておくと棚の下、床との隙間から顔の下半分がにょきにょきと出てくる。それは明らかに隙間数センチから出てこられる厚みではなく、人間のような球に近い頭部が、棚の隙間という平たい間隙から出てきていた。こういうものは往々に物理法則を無視したりする。しなかったりもする。物理法則に聡くないものの方が無視する傾向にある。これも経験則だが。

 全部出てきたら鬱陶しそうだな、と判断。一瞥をくれて、私の右肩についた獰猛で脅すと、そいつは音もなくひょいっと棚の下へと隠れていった。


 怖がったのか、気付かれたのが嫌なのか、もう出てこないのか、まだあのスーパーに居座るのか、全ては謎のままだ。


 どうでもいいので捨て置く。魚市場が魚臭いのと同じことだ。人の集まる場所は、どこだろうと臭い。

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