第五章 三種の神宜

◇三種の神器

「三種の、神器……?」

 話が視えていない紅葉に、伊勢宮は頷いた。

「霧生紅葉の手首の八尺瓊勾玉、それに、戸隠に葬られていた草薙剣はどちらも剣璽と呼ばれ、歴史に沈んだはずだった。おそらく揃うは、源平時代以来だろう。神器には神の力が封じられていて、揃った時に共鳴を起こすはずだ。その力で、紗冥に揺さぶりをかけることが出来よう。神の力を以て、神の魂を起こす。伊勢神宮でなら、出来る。絶対に揃わないように、かつての神器はばら撒かれたそうだ。揃えたものが、神になるとの言い伝えで」

 ――例え天命が起きても。歴史を覗きたい欲には敵わない。わたしたちが人としての好奇心を備えて生まれてきたのなら、知るべきなのかも知れない。

 それは、神でもなく鬼でもない。ただの人間としての興味だ。

「こわい」紅葉の言葉は至極真っ当だった。わたしは紅葉の手を強く握って、俯いた。唇が震えて来て、目を閉じた。大丈夫、もう、わたしはわたしの運命に恐れはしない。

「もう、あんたを殺す運命は終わりにしたいんだ。そうでしょう? かつてわたしたちが伝承の通り、伊邪那美と伊邪那岐だったら、引き裂かれたことになるんだよ? では誰が? 覚えてる? 伊邪那岐が黄泉に妻を迎えに行った話――」

「誰が、引き裂いたの……? それが、分かるの?」

 わたしは紅葉を抱きしめて、頭を撫でた。

 なぜ、女としてわたしは転生したのだろう。

 理由も、全てがそこにある気がしてならなかった。

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